ドッペルゲンガー

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 時間は十時すぎ。文化祭っぽいからという理由で、私たちはお化け屋敷に行こう、ということになった。開催クラスは一年六組。場所は一年生のクラスの並びにある空き教室。  一年六組のお化け屋敷はテーマがあるらしく、タイトルが「シンお岩さん」となっていた。私たちはそこに惹かれてお化け屋敷に来たのだけれど、案外お客さんは少ないらしく、私たちの前には二組の客しか並んでいなかった。 「お岩さんって、あれだよね、昔の日本の怪談」 「お、カヤ、話を知ってるのか?」 「そりゃあね」  私は自信もって答えた。 「お皿を数えているんでしょ!」  草太兄ちゃんはププッと吹き出した。 「それはお菊さんな、播州皿屋敷の。お岩さんは顔が怖いヤツ」 「あ」  草太兄ちゃんに自分のバカさを露呈してしまった……恥ずかしい。すると前に並んでいた制服の二人組も吹きだしている。私の話を聞かれていたらしい、恥ずかしい! 「やっぱり、花子先輩だ! もう、また同じ間違いしたんですね」 「え?」  前の二人組がふり返ると、私の顔を見てさらに笑いだした。 「花子先輩、この間もお岩さんとお菊さんを間違えていたじゃないですか」 「もう、花子先輩の鉄板ネタですね」  私は慌てて首を横に振って否定した。 「いやいや、私はその、花子さんじゃないんですけど」  すると二人はさらにお腹を抱えて笑いだした。 「お岩さんにお菊さんに加えて花子さん!」 「やだあ、横須賀高校の七不思議になっちゃいそう」  いやいや、七不思議に勝手に組み込まないでほしい。そもそも私は花子さんではない! 「この子は、さっきも花子って人と間違われたけど、正真正銘別高校なんだよ。だからあんまりからかわないでくれるかな?」  草太兄ちゃんがあきれたような、でもちょっとおもしろく思っているような顔で、二人組に注意をした。二人組は笑顔が固まって「本当に?」「え? でも、花子先輩そっくり……」と言っている。  私は仕方なく、カバンの中の学生証を取りだして二人に見せた。 「松風カヤノ……さん?」 「ほ、本当に別人だ……」  すると二人はガバッと大きく頭を下げて謝った。 「ごめんなさい!」 「失礼なことを言ってしまいました!」  私は「いいのいいの、分かってくれれば」と笑顔を見せた。  二人はそれでも気まずそうに顔を見合わせて困っていた。 「ホントに、大丈夫ですから。ほら、列が進んでますよ」  私がお化け屋敷の受付の方を指さすと(どうしたのだろう?)と不安げな顔をした受付の雪女がこちらを見ていた。 「あ、じゃあお先に」 「すみませんでした」  二人はそう言いつつ、慌ててお化け屋敷に入っていった。間もなく、二人の甲高い悲鳴が聞こえてきた。 「よっぽど花子って人とカヤは似てるんだな」 「そうみたいだね」  お化け屋敷の受付の雪女にも「花子先輩?」と首をかしげられてしまった。さすがにここまで間違われると、私も不安と好奇心が大きくなってくる。  どれほど私が、その花子さんに似ているのだろうか、と。
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