ドッペルゲンガー

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 その後も、軽音楽部の演奏が行われているホールで「花子じゃん!」と男女数名の生徒に絡まれた。  逃げるように体育館に来ると、ちょうど午後からの演劇の準備中らしく、生徒ばかりで私たちのような部外者はほとんどいなかった。けれど草太兄ちゃんを知っている生徒が何人かいたことで、私たちは体育館に入ることができた。すると「あ、花子っちじゃん。さっき富田先生が怒ってたぞ」と知らない女子生徒にニヤニヤと笑われてしまった。  いや、私は花子さんじゃないし、怒ってたことを面白おかしく思われるのも不快だ、と何から弁明しようか考えているうちに「ここにいたか!」と大声が体育館に響いた。ふり向くと怒りの形相の男性が仁王立ちでこちらを見下ろしていた。 「私服に着替えて客に紛れていたな? まったく、どこに行っていたんだ!」  なんということだ、見知らぬ大人に怒られてしまった。これはかなりへこむ。 「富田先生、お久しぶりです」  すかさず草太兄ちゃんが横から入って私をかばうように立った。 「お? 草太じゃないか。どうしてコイツと?」 「あの、実はこの子、僕の従妹なんですけど」 「お前たち、親せきだったのか?」 「あ、いえ、そうですけど、そうじゃなくて……」  どうやら富田先生と言うのは、草太兄ちゃんも知っている先生だったらしく、仲裁に入って誤解を解いてくれた。他校の生徒を怒鳴ってしまったと、富田先生は土下座の勢いで私にお詫び倒してくれた。 さらにお詫びだ、と言って教員用の発注弁当とペットボトルのお茶を譲ってもらえたので、私は快く許すことにした。
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