ドッペルゲンガー

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ドッペルゲンガー

 九月半ばのまだ暑さが残る今日は、従兄の母校である横須賀高校の文化祭に来ていた。  従兄の草太兄ちゃんは大学二年生。高校三年生のときの後輩が今、三年生として仕切っているのをぜひ見て見たいんだとか。  私は市内の別の高校に通っている、高校一年生。私の高校は文化祭と体育祭を交互に開催していて、今年は体育祭だったから、文化祭の空気と言うのははじめてだった。  だから、ちょっと楽しみだったりする。 「まあ、普通の文化祭だよ。つっても、ほかの学校と比較したことあまりないけど」  草太兄ちゃんはそう言うと、受付の列に並んだ。 「うちの学校は金券制だからな。ま、食事はよそ行くから、千円ずつ交換すれば良いよな」  私はうなずいて財布から千円札を取り出そうとした。すると前の人がはけて、順番が回ってきた。 「こんにちは、横須賀高校の文化祭にいらっしゃいま――あれ? 花子、どうしたの?」  私は取りだした千円札を受付の人に渡そうとしてから、ようやく「花子」と呼ばれたのが私だと気づいた。 「あの、人違いです」 「はい? え、でも、花子……あれれ?」  おどろいた表情の受付の人は、そのままキョトンとしてしまった。草太兄ちゃんは「なになに、カヤ、この高校に知り合いいたの?」と受付の人と私とを見比べている。私は首を横に振った。 「あの、私の名前は松風カヤノです。花子じゃないです」  私が丁寧に言うと、受付の人もようやく「たしかに、花子はさっき、制服姿だったもんね。私服じゃなかった」と合点したようすで、「人違いでした、すみません」と素直に謝った。私と草太兄ちゃんは無事に金券を受け取って受付を離れた。 「でも、びっくりだな。カヤにそっくりな人がうちの高校にいるってこと?」 「そうなのかな? 人違いされたのはじめてだよ」 「けどさ、普通なら私服姿の時点で気づきそうだよな」 「そうだよね」  私はそれ以上気にならず、受付で金券と一緒にもらった校内マップを広げれば、もう〈花子〉という人物のことは忘れていた。
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