対決

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対決

寝戸 ゆかり : 「うーん、賑やかになってきたね。現実ではとても見られない光景だ。N、スランプ脱出の糸口は見つけられそう?」   : 「スランプ、か。そうだね。スランプから脱出できても、ここから脱出できればどうしようもないな。」  Nは苦笑する。君たちの言葉に身を躍らせるようにして世界は次々に色づいていく。小さな雀どもを蹴散らすことももう難しい話しではない。あとは私が結末を語れば、このものが足りない世界も幕を閉じるのだ。   : 「いいや、その前に、……!」   :  私が語ればよい。  私が語ればよいのだ。  Nは一切の返答をしない。 「……っ。」 寝戸 ゆかり : この場からの脱出を考えるならば、まず浮かんだのはいつか漫画で読んだような『どこにでもいける扉』を作ることだ。ここが不可思議なものを作ることができる世界ならば、元の世界と繋ぐものも作れるかもしれない。 その考えがあるからこそ、このような先の見えない状況でのんびりと構えていたものだが……やはりNが気になって仕方ない。 KP : s1d100 (1D100) > 43 KP :  あなたはNが何か言いたげに訴えかける表情をしていることに気がつく。何かが彼の中で喉元を押さえつけているようで、彼自身が何も言えないのに苦しんでいることがわかる。  彼の制約を外すためには、彼にものごとを問いただすのではなく、あなた自身の言葉で「Nに語らせるように」語る必要があるだろう。 寝戸 ゆかり : 「ふむ……要因はわからないけど、今の君は不自由なようだね。じゃあ改めて問うてみるけど、『教えて。Nは何を語りたいの』」 KP :  Nは苦し気に首を左右に振っている。  あなたは思い出すことだろう。あなたの語る言葉は描写そのものを塗り替えることができる。Nに、君の言葉が一番強いと言われたことを。 寝戸 ゆかり : 「この方向じゃダメみたいだね。それなら色々試してみようか。」 話すこと自体が縛られているわけではなさそうだけど、核心的なことは何かに邪魔をされて話すことができないようだ。これまで聞くことができたのは、「誰も帰ることができなくなる。」という言葉。 「うーん、あれを聞いたときに使った言葉と近い形にするなら……いっそ大胆に『Nは声を出す必要がない。なぜなら彼は脳内に直接言葉を届けることができる』とか?できたら面白いけど、どうだろう。」 KP :  あなたの試みに、Nはくすりと小さく笑みをもらす。次いであなたの頭の中に、Nの声が聞こえてくる。 N : 『ああ、よかった。このまま物語内世界が終わってしまったらどうしようかと思ったよ……!しかし、こんな方法で突破してくるとは思わなかったけれど……全く君の発想には驚かされるよ。』 KP :  あなたの言葉によってNはほうと息をつき、そう語った。N自身の言葉で語った。新しい色彩がぱっと世界にこぼれ出て、あなたの言葉と撚りあわさっていく。言葉はするするとあなた達の周囲を中心に立ち上り、おおきな魚から、そして鳶の羽の先から紡がれた言葉の帯でできた情景を突き抜けて天高くのぼっていく。 N : 『物語を書いていく途中で、段々と“私自身”と“作品の中の私”とが混ざっていってしまってね』 N : 『それでも書くのに夢中になっていたら、すっかり物語内世界の“私”とひとつになって、閉じ込められてしまったのだよ』 N : 『でも、君の言葉のおかげで、私は“私自身”の言葉でやっと話せるようになったよ。ありがとう』 寝戸 ゆかり : 途端に饒舌になったNに笑い返しながら、Nの語る事情に肩をすくめる。 「どういたしまして。むしろ気づくのが遅くなってごめんね?まさかそんなことになってるなんて、Nの集中力を見誤ってたよ。」 N : 『いや。こんなことに巻き込んでしまったこと自体、君には申し訳ないと思っているよ。面倒なことにしてしまって。』 N : 『これは推測なのだが、君はここに来る前、何等かの原因で私の書きかけの作品を読んでいたのではないかな。そこで“作品の中の私”に招かれてしまったのだろう。』 寝戸 ゆかり : 「うーん、思い当たることがなくもない……かな?Nの意志に反して動いてしまうなんて、”作品の中の君”は厄介なんだね。」 寝戸 ゆかり : 「でも私はこんな貴重な経験をさせてもらって感謝すらあるよ。平穏な日常のスパイスだ。それは平穏があるからこそより美味しくいただけるものだし、そのうち帰りたいとは思ってるけどさ。」 N : 『厄介、か。私であって、今は私ではない、境界を失ったもう一人の“私”……。彼がずっと私たちのことを語っていたことを、君は気づいていた?』 寝戸 ゆかり : 「不思議な場所から語りかけられてるような感覚がする、くらいには。それがどうかした?」 N : 『この世界から抜け出すためにはね、私の言葉を、破らなければならない。そう、私であって私でない、もう一人の私の言葉を。』 N : 『……ねえ、そこにいるのだろう?“私”』 私 :  N、私はこの物語内世界を、ものが足り得る世界にするために、私のことを書かなければならないと、思った。そうしなければ、私の作品は他でもない私自身の来訪によって完結することがなく、私たちはひとりぼっちになってしまうと考えたからだ。 KP :  あなたとNの他に、もうひとり、語りかけてくる誰かがいる。世界に散りばめられた言葉が震え、渦を巻きだす。 私 :  だから私は、N、私を最初に語ってくれた「私」とひとつになることを選んだ。私が作品をつくるために何度も書いては消してきた言葉を拾って、私は私を語ろうと思ったのだ。 KP :  渦の中心にいるのは、あなたとN……いや正確には真上を滑空する巨大な鳶を中心にしている。もはや骨のみに等しいそれは音もなく色のない空気を振り仰ぎ、身を翻すと深くのけ反ってあなたたちの前へと降り立つ。  その体躯は、もはや鳥と形容できるほど輪郭をつくるだけの言葉を残していない。がらんどうの骨組みは削り取られたかつてのどこかの言葉のつぎはぎに過ぎず、抉られたものを無理にかき集めているに過ぎない。  しかし、痛々しい言葉もどきたちの奥に、ぬっくと一本突き立っている文字の連なりが蠢いている。あなたは自分たちを捕らえるように牙を剥き両腕を拡げているそのさまに、悍ましさの片鱗を見た。 KP : <SANチェック 1/1d3> 寝戸 ゆかり : CCB<=51 SANチェック (1D100<=51) > 5 > 決定的成功/スペシャル system : [ 寝戸 ゆかり ] SAN : 51 → 50 寝戸 ゆかり : 「つまり君は、寂しかった?」 悍ましいようでありながら、哀れでもある鳶だったものを観察し、脅威を測る。Nの作品を読むためにも、私はNを現実に連れて帰らねばならない。 しかし何らかの説得が可能ならば、試みる価値はあるだろう。 もう一人の友人、言葉で構成されたNの望みはなんだろうか。 私 :  これは、「私」の語る描写だ。私は書こう。どんな言葉であっても、作品から削ぎ落された言い回しであっても、「私」たちだって日の目を見たい。 寝戸 ゆかり : 「日の目を見たい。……誰かに読まれたい。本に仕立てられたい。そういうことかな。でもそれなら君が思う存分語り、物語になるほどの言葉で満たされればいい……ああ、それで。なるほどね。」 Nが削ぎ落とした言葉たちはNには必要がなかったもので、それをNがもう一度拾ったとしても物語にはできない。だから他人の手を借りた、というところだろうか。 「うーん、それなら私はちゃんと君を手伝えていたかな?思いつきで場面を変えることしかしていないけれど。物語にはなりそうかい?」 私 :  ああ。……あぁ、この世界は十分にものが足り得た。今こそ私は書かねばならない。この物語内世界を語り切ってこの作品を完成させなければ。  だからこれは、「私」たちの氾濫だ。 KP :  「私」と名乗る語りの描写は身をぶるぶると震わせて大きく膨らむ。点も線も絡まりあい、吐き出してきた情景の言葉をすべて呑み込むようにのたうち、びしびしとひび割れ、言葉同士が混ざり、濁っていく。 N : 「いけない、あの子は無理にでもこの世界に私たちを閉じ込めて作品を完成させてしまおうという魂胆だ」 N : 「せめて、君だけでも……」 KP : <目星>または<母国語> 寝戸 ゆかり : CCB<=90 母国語 (1D100<=90) > 9 > スペシャル KP :  あなたがじっと目をこらす先で、目の前の言葉の氾濫はぐちゃぐちゃに混ざり合い続けていく。その奥で、今までに語られてきたのとは異なる結ばれ方をして文章になっていく様子を捉えることができた。  その様子は先程までのNと同様に、物語の洪水にのまれて本音の言葉を掴みあぐねる姿に似ていた。 N : 「ねえ、君」 KP :  N があなたに対して語りかけてくる。 N : 「今私たちの目の前で大きく渦を巻くのは、私たちが語ってきた言葉そのものだ。けれど同時に、私そのものだ」 N : 「私は『N』。この物語内世界の登場人物。そして『私』と『N』とをいったりきたりしていた」 N : 「両者の境界を失った私の言葉では、あの大渦を破ることはできないだろう」 KP :  Nの言う通り、彼の言葉はくるくると舞い上げられ、大きな洞よりも暗くなった眼前の言葉の群れに溶かされていく。しかし、寝戸ゆかり、あなたの言葉だけはどこにも濁らず、ガラス片のように光を反射しきらめいていた。 N : 「だから、ここから先は君にしかできない。君の言葉で、この洪水を打ち破る展開を語るんだ」 N : 「君が望む物語の結末を。作品の最後を……」 KP :  あなたたちを呑み込もうとするばかりに、竜巻のごとく巻き上がる言葉たちが、ごおっと左右に大きく揺れた。その中で叫ぶように、Nの言葉があなたの背を押す。 N : 「さあ、この物語内世界から出るために」 N : 「君の言葉で、世界の終わりを騙ってくれ!」 寝戸 ゆかり : 「私の望む物語の結末、ね。……それは難しいことをいうねぇ。今までで一番難しい、難題だよ」 寝戸 ゆかり : 「私はヒーローにはなれない、というかなるつもりもない。手伝いをするくらいの距離感が好きなんだ。だから、物事の結末なんてものも誰かの望み……それこそNの望みを叶えるのが私にとって一番の結末だ。そこに自分の生はどうだっていい。私にとって私なんてそんなものだ」 寝戸 ゆかり : 「だからこの世界の終わりは……」 そこまで言って考え込む。 先程の言葉は紛れもなく本心からの言葉だが、かといって死への願望もなく、バッドエンド愛好家でもない。 物語はやはり、ハッピーエンドであってほしい。 KP : s1d100 >Nに対する心理学(70以上で成功) (1D100) > 35 KP : s1d100 >私に対する心理学(70以上で成功) (1D100) > 34 KP :  Nは、自分の都合で君を巻き込んでしまったことに対する責任を感じているのではないか。最悪自分は助からずとも、なんとか君だけでも助かってもらいたいと思っているように感じられる。 KP :  君は、もう一人のNである「私」の言葉を思い返す。  むき出しになった言葉の奔流は、「私」という描写する者の叫びそのもののようだった。その中にひとつ、ひときわ鋭い心臓部の言葉を見つける。 『名前があるから呼ぶのではなく、モノがあるから語るのではなく、しかし私は語らなければものが足り得ない。私は物語の言葉に過ぎない。』 『「私」という輪郭を見出すために、私たちはただ、日の目が見たい』 寝戸 ゆかり : 考え込むのを止め、顔を上げる。 途方もない考えかもしれないけれど、まずやってみないと。 ここに来てからずっとそうであったように。 「この世界は、私がこの世界の登場人物である君たち『二人』を連れ出すことによって、終わらせよう。」 寝戸 ゆかり : 「『この世界は終わる。うさぎと人間が協力して隕石を止めても、その後の爪痕があまりに深く、世界は終わりへと向かっていた。』」 寝戸 ゆかり : 「『しかし、君たちはこの世界の登場人物であり、作家だ。片方は執筆に熱中するあまりに物語へ取り込まれ、自分を見失ってしまった者であり、もう片方は物語の言葉に過ぎずとも、描写を語り、言葉を紡ぐ者。』」 寝戸 ゆかり : 「『君たちは作家なのだ。』」 寝戸 ゆかり : 「『ここは物語の世界。作家であればこの物語の運命を、外側から変えることもできるだろう。君たちにはその力がある。』」 寝戸 ゆかり : 「『この世界の外へ出て、この世界を救う物語を、君たちの物語を紡ごう。』」 寝戸 ゆかり : 「『出口はそこにある。三人でくぐろう。二人は作家、一人はこの物語を見届けるための読者として。』」 そう言って目前の何もない空間を指す。 寝戸 ゆかり : つまり、私の結論はこうだ。 『N』も『私』も、一人の人間として独立すればいい。 互いに囚われることなく、好きに物語を書けばいい。 足りないものがあれば、自らの足を以て補えばいい。 ついでに私の特等席も用意させてもらったから、私の望みも叶えられる。 寝戸 ゆかり : 「これでどうだろう?」 二人の方を振り返る。 KP :  あなたが振り返ったその視線の先で、まるでその呼びかけに呼応するように、ざあっと白銀の反射光が湧き上がる。渦を逆流して爛々と両目を燃やす。散らばっていたちいさな魚たちが、翅をもたない本の虫が、一斉にのたくって洪水の大渦を食い破り始めたのだ。  黒く濁っていた言葉の氾濫に隙間がしたたり、跳ねるようにまっしろな光が差し込みだす。光はあなたの言葉を受けて、乱反射する虹色をはばたかせる。  砕けたガラスがスターダストのようにきらめく。  路面が虹色を受けて鉱石の表面のように艶めく。  あかねさす燐光が瞬く。  言葉のみどりごが産声をあげる。  その視界が徐々にこがね色に満ちていく。  やがて、あなたの感覚は、一挙にまばゆい光明の天辺へ引き上げられる。 N : 「ねえ、君!」 N : 「無事に元の世界へ帰ったら、日の目を見た私の作品の最後のページを読んでくれ。私を取り戻すため、呪文を破るために。私の言葉を君に賭し、私も君と反乱しよう」 私 :  私は笑った。ほっと息を継いで、次いで安堵した。この光の中で消えていくはずだったこの身だけれど、その言葉の力があれば、もしかしたら私にも帰れる場所があるのかもしれない。  私は、君に手を振って別れを告げる。それから少し首を傾げて考える。訂正しよう。 「またあおう」 KP : そうして、あなたの感覚は、一挙にまばゆい光明の天辺へ身を躍らせる。 KP : ------------------------------------------------------  眼球がしばたき、睫毛が震える。どれくらい時間が経ったのかはわからない。あなたがようやく意識を取り戻すと、あなたは手元に紙の束を抱えていた。紙の束には文字がたくさん連なっており、刻まれた文字のわずかな凹凸ひとつひとつが、窓から差し込む西日の目を見やって淡い色彩を反射していた。  あなたは知っている。これらの言葉が、とある作家からこぼされたものであることを。そして、あなたもまた彼と共に、物語へ自身の言葉を含ませて、共に織り上げてきたことを。  紙の枚数はそれほどない。言葉は次の文章からはじまっていた。 KP : ------------------------------------------------------  さて、私は、これから何を語ろうか。書きたいことはたくさんあるし、誰にも読まれないよう書かずにしまっておきたいものだってたくさんある。 ------------------------------------------------------ KP :  あなたがこの文章を読むのは、二度目だ。  今のあなたであれば、思い出せる。あなたは、この紙の束に綴られた物語を読み、そうして次には、見知らぬはずの「N」という存在を訪ねていた。あなたも物語の登場人物のひとりになってしまっていたのだ。  あなたの脳裏に記憶が色づく。  そんなあなたに対し、背後から声をかける者がいた。 男 : 「やあ。いい読みものをしているね」 寝戸 ゆかり : 紙の束から顔を上げ、振り返って片手を振る。 「うん、勝手ながらお邪魔しているよ、友人。いい読みものだった。……けど、最後のページはまだ読んでないんだ」 男 : 「おっと、そうだったかい。それはよかった。その作品は少し危険でね。いやぁ、間に合ってよかったよ。それをこちらに渡してくれないかな?」 穏やかに笑うその男は、あなたの手にする紙束を渡すよう手を差し伸べてくる。 寝戸 ゆかり : 「……おや」 男を観察するようにじっと見つめる。 KP : s1d100 男に対する心理学。71以下で成功。 (1D100) > 2 KP : 男は何か隠しごとをしているようだ、とあなたは思う。表情と声色の端々から言いようのない悪意を明確に感じとることができる。 寝戸 ゆかり : 「残念だけど、これは渡せない。これは私が預かった、友人たちの大事な作品だからね。ところで君は何者なのかな?」 紙の束を抱え、いつでも対応できるよう構える。 男 : 「それは困るなぁ……だってそれはもともと私のものなのに。無暗に手荒な真似はしたくないんだけど。」 KP : どうしたものか、といったようにあなたへ差し出していた手を顎に持って行き、妖しく目を眇める。 男 : 「心配しなくても、ここで私と君が会うのはこの一度きりさ。名乗るほどの縁じゃない。」 寝戸 ゆかり : 「そう?それなら私も助かるけど。名前を覚えるのは苦手でさ。でも、少なくとも最後のページを読むまでは手放す気はないよ。」 「それに、これでも守ることについては本職だからさ。面倒なことを避けたいのなら、私の友人を説得してね。」 警戒をそのままに、紙束を捲って最後のページを開く。 KP : まだあなたの手元にある紙束を捲り、最後のページを開くことは容易なことだった。さっと目を走らせれば、そのページにはたった一文だけが残されていることが分かる。 『作品を、言葉にしたためた私の枷を燃やしてくれ』 寝戸 ゆかり : 「なるほど。ねえ、これ燃やしていい?」 目の前の男に聞く。 回収が目的だとしたら、交渉は決裂といえるだろう。 男 : 「いや、いいわけないでしょう。燃やすくらいなら私にくれてもいいじゃないか。その作家とは縁があってね。とっておきの言葉を教えているのさ。そのとっておきを使った作品がどうなっているのか、ずっと楽しみにしていたのだから。」 KP : 怪訝そうに顔をしかめながら、再度男はあなたに手を伸ばして来る。 それを、よこせ、と。 寝戸 ゆかり : 「そのとっておきの言葉、興味あるなぁ。どんな効果を持つんだろう。」 手を伸ばしてくる男から目を離さないまま距離を取り、さっと視線を動かして火をつけるものを探す。 ライターか、キッチンのガスコンロでもいい。 KP : 男との距離感に気を付けながら部屋を見渡せば、まるであなたを待っているかのように、手を伸ばせば届くところに置かれたライターが目に留まる。 あなたがライターを問題なく使えるのであれば、その手にあるその紙束に素早く着火することができるだろう。 寝戸 ゆかり : 「えーいっ」 ライターを取って紙束の端に着火する。 やはりもったいないという思いはあるが、やると決めたら、勢いだ。 KP :  火のついた紙束は、あなたの手元から羽ばたくように燃え上がる。強烈な熱がひるがえる。男がぎょっとした悲鳴をあげて腕をのばそうとするが、間に合わない。作品はめらめらと言葉を紙ごと呑み込んでいく。点も線もくしゃくしゃに歪み、いらりいらりと黒焦げていき、灰色に失われていく。  男は自分の手が届かないことを悟ると、呻きよろめきながら掻き消えるようにして姿を消した。  やがて、紙の束はあなたの手を離れ、ひと際大きく  ぱちり!  と天辺から弾け、大きくのけ反った。  あまりに眩しい火花に、あなたは思わず、目をしばたかせるだろう。  睫毛が震える。やがてあなたは、目を開く。 ??? : 「……ねえ、君」 KP :  眼前の人物はあなたへ語りかける。 ??? : 「ああ、会えたのが君で、よかったな」 KP :  眼前の人物は最後わずかに残った紙片を大事そうに両手に包み、はにかむようにあなたへ笑いかけた。 ??? : 「……最初に、何を語ろうか。君と語りたいことがたくさんあるし、君から聞きたい話だってたくさんあるんだ」 ??? : 「でも、ひとつずつにしよう。そうだな、最初に……」 ??? : 「私の名前にしよう。アルファベットでない本当の名前を、君に呼んでほしいんだ」 ??? : 「私の名前は、」 KP :  作家というのは難儀な生きものだ。言葉を紡ぎ、文字に書き起こし、文章を綴り、物語を織り上げる。とある作家曰く、書かずにはいられないのだと言う。とある作家曰く、書かなければ死ぬのだと言う。しかしとある作家曰く、それでもどうしても、書くことを愛しているのだと言う。  彼らは、物語の洪水の中に棲んでいた。   :  私と共に語った君へ。  ありがとう。  私は今も、物語の洪水の中に澄んでいる。 シナリオクリア : クトゥルフ神話TRPG『本翅の彩度』 - 完 - エンド「黎明」
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