玖拾八夜

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玖拾八夜

だいぶ前の話。 とある寺の下にパワーストーンのお店があった。 そこの店主と仲良くなったので、寺に詣ると帰りにはそこに寄った。 店内は狭い。 建長い造りで、真ん中に長いテーブルがあり、そこにブレスが並ぶ。左側は、引き戸である。他の壁は商品が並ぶ。 前にカウンターがあり、そこで店主に霊視鑑定などをしてもらうのである。 先客がいたので、横に並ぶように椅子に腰かけた。 私は引き戸に近い場所に座った。 老夫婦が入ってきた。 おばあさんは、引き戸の前にある椅子に腰け、おじいさんは壁側に立っていた。 カラン、と引き戸が開いた。 (お客さんかな。) 後ろを振り向いたら女子大生が立っていた。 (やけに生気のない顔やな。すごい悩み事があって店主に相談にきたのかな。) 清楚系のお姉さんだった。 ちゃんとサンダルも見た。 あまり、ジロジロ見るものではないだろうと、前を向いた。 おじいさんが、驚いたように 「あれ?お姉さんは?」 振り返ってみると、女子大生がいなくなっている。 いつの間にか、出ていったんだろうか。 でも、扉が開く音がしなかったな。と 「いないですね。」 店内は狭い。隠れるスペースなんてないのだ。 「あなた達、何を言ってるんです?私はこの扉の前にずっと座っていますけど、誰も入ってきてはいませんし、出てはいませんわ。」 と、おばあさんが言った。 思わずおじいさんと顔を合わせた。 「居ましたよね?お姉さん。」 「ああ、おった。」 「だから、いませんてっ」 おじいさんと二人、首を傾げた。 店主に聞いてみた。 「ねぇ、女子大生のお姉さん入ってきましたよね?」 「そんなお客さん見てないわ。」 そういえば、この店主が珍しく挨拶をしていなかったことを思い出した。 「ああ、きっと幽霊のお客様ね。ほら、ここ上がお寺だから。」 よくあるの。 と店主は笑った。
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