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とりあえずやってみる
彼女は、あまり深く考えないタイプだったので、
彼を殺す方法についても、かっちりした計画は立てなかった。
ひどく雑に「とりあえず、やってみるか」
って感じで、スタートした。
1回目のトライ
旅行先で、彼を崖から落としてみた。
雑は雑なりに、一応 周りに人目がないことは確認したし、
落とす時も、何かにつまずいた勢いで
ぶつかってしまった『フリ』くらいはした。
そして念のため、夫を心配して泣き叫ぶ妻を演じながら、
崖下を覗き込むと…
◉彼は、以前 崖から落ちて死んでしまったことがあった。
もう死にたくない彼は、タイムリープした後、
フリークライミングを習いに行っていた。
おかげで、少しくらいの崖なら、
落ちても途中の何かに掴まって、ぶら下がることができるようになっていた◉
そう。彼は死ななかった。
2回目のトライ
交通量ハンパない交差点で、信号待ち中に
彼を突き飛ばしてみた。
今度は、誰かが彼女の背中を押したはずみで、
彼を押し出しちゃった、という『テイ』で。
すると、彼はぴょいと飛び上がったかと思うと、
対向車のボンネットをごろごろ転がっていき…
◉以前、交差点で飛び出して死んだ後、
彼はパルクールを習いに行っていた。
壁を駆け上がったり、地面を転がったり、
車を飛び越えたりすることも、平気になっていたのだ◉
そう。またしても彼は死ななかった。
3回目のトライ
もう何も考えずに、階段の一番上から
ぐんっと押してみた。
面倒臭いから、『フリ』も『テイ』もなしで。
突然のことで、声も上げずに、
恐ろしい音を立てて転がり落ちる彼を目の当たりにして、
さすがの彼女も震えながら、階段下を見下ろすと…
◉過去に、階段を転げ落ちて死んだ後、
彼は格闘技を習いに行っていた。
そこでは、体幹を鍛えつつ、頭を守る方法や
受け身を体得していた◉
そう。やっぱり彼は死ななかった。
階段の下で、完璧な受け身を取り、
大の字になっている彼は、にっこり笑っていた。
「どうすれば、彼は死ぬの?」
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