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37.災③
「……え~?どうゆうこと~?深雪さんにも分かるように説明してみて~?」
珍しいこともあるものだ。普段あまり私に興味のなさそうな深雪さんが、話に乗って来た。
「んーとね。昨日みんな……あ、深雪さんがまだ帰ってくる前ね!みんながダイニングに集まった時に、光くんの顔がすごーく青白くて具合悪そうだったの。その時は、前に誘拐事件に巻き込まれた事もあったし、それを思い出したのかなぁとか思ってたんだけど……」
「けど……?」
「もしかしたら、音に気づいてお庭とか1階の様子を見に行ったら鉢合わせした!とか?……何かしら見たり、聞いたりして怖くなっちゃったのかなぁって」
「なるほどねぇ。……望月の部屋は2階の1番階段側だし、何か見たのかもしれないねぇ」
「でしょー?」
私の話を聞いて、深雪さんはいつもの笑顔を浮かべながら1人で頷いている。
「あ!いけない!朝ご飯の支度に間に合わないっ。深雪さんっ、またね!」
いつもより遅い時間になっていることに気づいて、私は慌ててキッチンへ走った。
朝食の時間に改めて、騎士団が来ることや聞き取りの順番などが伝えられた。私の聞き取りは前回と同じく、門番さんが行ってくれるらしい。
食後の片付けをしていると、立花さんが騎士団を迎えている様子があった。お客様用のお茶を淹れ終わった所で、お姉ちゃんが聞き取りに呼ばれ、私はキッチンに1人残って片付けの続きをする。
「おはようございます」
聞き慣れた声に振り返ると、門番さんが立っていた。
「おはようございますっ!」
「大変だったな。怪我とかないか?」
「大丈夫ー!柚子は不死身だからねっ!……お庭とかお屋敷の外はどんな感じですか?」
昨日の夜に起きた事件ーー夜間で外は見えなかったし、朝起きた時には既に窓は塞がれ、外に行くのは禁止されていた。お庭に何かあると育の機嫌も悪いし、とにかく外の様子が気になったので問いかけみる。
「あー。立ち話もあれだから、お前の聞き取りをしながらその辺りも話そう」
そう言われて門番さんの後を着いて行く。ダイニングに入ると、お姉ちゃんと育がそれぞれ騎士団の人と向き合っていた。私と門番さんは2人から少し離れた所に、向き合って座った。
「さて、まずはさっきの質問だな。庭は……前回燃やされた時程の被害はない。少し花壇が踏み荒らされた程度だ。」
「そうなんだ!」
チラッと育の方を見ると……前回より被害は少ないらしいけど、すごい怒っているのが伝わってくる。新しい苗を買ってきて植えたばかりだったもんね。
「屋敷の外壁は、多少傷がついている程度だが……中よりはマシだな」
お屋敷の被害状況を聞き終わったタイミングで、2人でお茶を飲む。ふぅ……と思わず息が漏れた。
「さて、聴取を始めるぞ。お前の視点で良いから、なるべく詳しく話をしてもらいたい」
「はいっ!」
「まず昨夜何があったかを話して貰いたい」
そう言われて、寝ようと思ったら何やらすごい音ーー今思えば、窓ガラスの割れる音がしてその後修斗くんの怒鳴り声がしたことを話す。私の話を聞きながら、門番さんは丁寧にメモを取っていた。
「その後は?屋敷の中や、屋敷の人間の様子はどうだった?」
「お姉ちゃんがお部屋まで来てくれて、多分犯人の人?が走り去る音がしたから1階に降りたの。みんなの様子は……ご当主様は、まぁ堂々としてたね。修斗くんと育は怒ってますってオーラと顔だった!立花さんは慌てていたけど、いつも通りかな。光くんは、怖かったみたいで青白い顔してて可哀想だった……」
門番さんに話しながら、やっぱり気になるのは光くんのことだ。今朝もなんとなく青白い顔だったし、夜眠れていないのかもしれない。
「……執事見習いがか、心配だな」
「ね!そうなの!今朝も青白い顔してたし、眠れてないのかなぁ?」
「やけに、心配するな。……あ、もしかしてお前……」
「同期だからね!やっぱり同じ見習い同士心配なのよ!柚子の方が一条家歴長いし?先輩として?なんていうか……ね!」
誰にも言ったことはない、この光くんに向ける気持ちを門番さんに言い当てられそうで、思わず声が大きくなってしまった。門番さんは、苦笑いをしていた。
「そうだな。同期だもんな」
よく分からないけど、とりあえずこの場は凌げたようだ。
「……他の人間は?」
「ん?昨日の夜に、お屋敷にいた人の話は以上だよ!あ、深雪さんは昨日の夜いなかった」
「そうか……」
「深雪さんって、そう言えばこの前のお庭が燃えた時もいなかったんだよね!怖い時いつもいない!ずるい……ちょっと羨ましいな」
ボソっと呟いてお茶を啜る。深雪さんは危険回避能力があるのか、そう言えばお屋敷のピンチにはいつもいない。怖い思いをしたらしい光くんの様子を思い浮かべて、ずるいなぁ……深雪さんの方がメンタル強そうなのになぁと思った。
「また……いなかった夜に襲撃されたのか」
「ん?何か言った?」
育の聞き取りが終わり立花さんと入れ替わって、お姉ちゃんも聞き取りを終えて席を立った。そんなダイニングの様子をボーッと眺めていたら、門番さんが何か呟いたけど、よく聞き取れなかった。
「いや、独り言だ」
私の聞き取りは終わり、通常業務に戻ることになった。ーーと言っても、まずは割れたガラスの片付けからだったけどね。
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