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39.災⑤
んー!なんだかよく眠ったなぁ……。やばっ、今何時??慌てて飛び起きて枕元の時計を見ると16時になるところだった。午後のおやつ食べそびれたなぁと思いを馳せながら、夕食の準備を手伝うためにキッチンへ向かう。
「じゃーん!柚子の登場だぁ!」
「ちょうど今から支度するところよ。今夜は、シチューにしましょう」
ちょうど野菜を切るところから始めるらしい。手を洗って、お姉ちゃんと一緒に大量の野菜を切っていく。……光くんが具合悪いって知ってるかな、体調不良の人ってシチュー食べられるのかな。……一般的にはお粥なのかな。
「柚子?……柚子?どうかしたの?」
何度か呼ばれていたらしく、ハッとする。
「ん?あ、ぼーっとしてた!なぁに?」
「大した用事じゃないけど……。何か考え事?」
このモヤモヤを抱えたままだと、ぼーっとする一方だな……私の様子があまりにも変だとお姉ちゃんの事だから、具合が悪いと思い込んで部屋に行けと言われそうな気がする。よしっ!お姉ちゃんに言おう!
「あのね……光くん具合悪いんだって!シチュー食べられるのかな?」
どうやって伝えるか迷った結果、何とも脈略のない表現になってしまった。私が言葉足らずな時でも、お姉ちゃんはその脳内で適度に補ってくれるから意味は伝わったと思うけど……。あら、と言ったお姉ちゃんの顔は少し困っている。
「そうなのね。知らなかったわ……。じゃあ、光くんは途中で取り分けて野菜スープにしましょう。お部屋で休んでいるのかしら?」
立花さんも、何かとバタバタしているんだろう。お姉ちゃんに申し送りがないことは珍しい。何も知らなそうな様子に、光くんは部屋で待機していることを伝えて、料理再開となった。
「おい。結衣いるか?」
サラダ用の野菜を切っていると現れたのは、修斗くんだ。キッチンの奥でシチューを煮ているお姉ちゃんが、入り口からでは確認しづらかったようだ。
「いるよー!お姉ちゃんー、修斗くん来たー」
お姉ちゃんが返事をするより、先に修斗かんが話し始める。
「望月が具合悪いって。夕飯は消化に良いもので、部屋まで運んでくれ……」
「言うのが遅いわ。さっき柚子に聞いたから別の物は作っているけど」
「俺だって、さっき聞いたんだよ」
「あら、そう。修斗くんのさっきって、何時間前なのかしら」
修斗くんは大体の場合において、伝言を伝えるのが遅い。もし、私より早く聞いていたなら先に伝えておいてもらわないと……お姉ちゃんがちょっと怒っているのも無理はないな。俺だってーーとまだ話を続ける修斗くんを放っておいて、お姉ちゃんは調理を続けていた。そのうちに修斗くんがいなくなると、門番さんが訪ねてきた。
「お疲れ様です。就業時間なので、これで失礼します」
「お疲れ様でした。お気をつけて」
「門番さーん、お疲れ様でしたっ!柚子、玄関までお見送りするね」
正門付近には近づけないので、玄関先まで門番さんと歩く。そう言えば……と門番さんが胸ポケットから何通か封筒を差し出した。
「帰りに渡そうと思って忘れていた。今後は俺が不審物じゃないかを確認してから、屋敷の人間に渡すことになった」
そう言って渡された封筒は、全て開封されていた。
「え?柚子聞いてないよ!……中身も見るの?えーっ!何だか恥ずかしい」
「内容は見ていない。流石にプライバシーを侵害するわけにはいかないからな。……聞いてないのか?俺は運転手からそう聞いたが……」
門番さんが運転手と呼ぶのはーー修斗くんだ。まーた伝え忘れか、困ったもんだ。帰る背中を見送って、渡された封筒の宛名と差出人を確認する。大雅くん宛が3通、私・光くん・立花さんに一通ずつ。それぞれ一条家の前にいたお屋敷からだった。そう言えば、お姉ちゃんと育と修斗くんは、ずっと一条家にいるからお手紙とかあまり来ないけど、深雪さんってどこから来た人なんだろう。今までお手紙が届いたり、電話が来たり、訪ねてきた人もいないなぁ。……よし、今夜の夜間見張りは深雪さんだと小耳に挟んでいる。お疲れ様のお手紙を書いてあげよう!
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