46.乙女の嗜み

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46.乙女の嗜み

「何色のドレス着ようかなー」  昼下がり玄関ドアを拭きながら、私の気分はるんるんだ。今夜は観劇会!ドレスを着られるのは久しぶりでわくわくする。同行する使用人にもある程度の服を着せることが、家の格を示すことにも繋がるーーだからこの家に用意されている服は一流のものだ。舞踏会ほど煌びやかなものは着ていけないけど、それでも普段と違う服は気合いが入る。私だって年頃の女の子だ。 「女の子は大変やなぁ。ドレスに、髪型にお化粧に……」  一緒に玄関ドア掃除をしてくれる光くんから問いかけられる。 「そうかなぁ?結構楽しいよ」  おしゃれが出来ることは、メイドとして生きる身では滅多にない。服を選ぶ時、アクセサリーを選ぶ時、たくさん楽しいポイントはあるのだ。それを紹介しようとしたら、玄関前の花壇を手入れしていた育に遮られた。 「望月は着ていくスーツは決めたの?」 「立花さんに見繕ってもろった。……風見はホンマに留守番でええん?」 「僕は人混み苦手だから」 「そうかぁ……。風見がおらんと、ちょっと心細いわ」  性格は正反対に近いけど、この2人仲良しだよなぁ。……光くんの言う通り、育がいないのは少し心許ない気もする。 「2人とも一条家の見習いって立場なんだから、粗相のないように大人しくしていればいいんじゃない?……特に柚子」  前言撤回!やっぱり育はお留守番でいいっ!意地悪ばっかり言うんだから。 「意地悪っ!柚子だって、ちゃんと出来るもんっ!」 「……はいはい。食い意地張って、軽食食べすぎないようにね」 「え?軽食でるの?」  王宮主催のイベントだ。きっと軽食は豪華なものが並んでいるはず……。 「その話詳しく!!……あれ?」 「風見ならさっき走って行ってしまったで?」  育め……逃げたな。軽食の話は知らなかった。また楽しみが1つ増えたなぁ。  時計の針が14時半を示した。今日のおやつは……なしだ。私は一条家の衣裳部屋にいる。 「……これか、これがいいかしらね」  お姉ちゃんから示されたのは、ボルドー2着のドレスだ。1つはレース編みのもの、もう1つはベロア生地のものーー正直好みはレース編みだ、裾が綺麗な刺繍になっているし少し派手な感じで私好み!……だけど、王宮主催の観劇会に新人メイドとして出席する。立場を弁えるなら一択だ。 「こっちにする……」  指差したのは、ベロア生地の地味な方。お姉ちゃんはドレスに合う靴やアクセサリーを見繕ってくれた。 着替える前にメイクと髪型を済ませる。あんまり派手にならないように、ドレスにも合うように、それでも自分らしさが出るようにーー。  お互いの着替えを手伝いあって、私とお姉ちゃんの支度が整った。 「柚子、ネックレスを忘れているわ」  お姉ちゃんに指摘されて忘れ物に気づく。ネックレスは、ドレスの必需品だ。私は迷わず自分の誕生日石のついたシンプルなものを取った。 ……似合うって言ってくれるかな。彼のことを思い浮かべながら、私はそっと衣装部屋を後にした。
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