1人が本棚に入れています
本棚に追加
57.永い夜②
「はーい」
こんな時間に誰だろう。書き終えた日記を閉じて、扉に向かう。誰か分からないから、用心のために少しだけ扉を開けて様子を伺う。そこに立っていたのは、予想外の人だった。
「どうしたの?こんな時間に……」
慌てて扉を全開にして、部屋の中に招き入れる。昨日片付けておいて良かった。椅子に座るように勧めて、自分も向かいの椅子に腰掛ける。何かを言いたそうな……なんだろう。
「……どうかした?柚子に何か出来ることある?」
なかなか口を開かない様子の彼、静寂が部屋の空気を包む。
あまりの空気に耐えられなくなった。
「あの、お茶でも……淹れてこようか?」
そう言って席を立った時、初めて彼が言葉を口にした。
「なぁ。柚子ちゃん……もう、分かってるんやろ」
久しぶりに聞いた光くんの声は、氷水みたいに冷たかった。
「分かってるって……何が?」
「俺の目的が……」
目的?なんの話をされているのか分からない。ここ数日体調不良を起こしていた彼は、顔もやつれて元気は無さそうだ。瞳は前髪に少し隠れているけど悲しそうに見える。とにかく、いつもの光くんと違う。それだけは紛れもない事実だ。
「君はどうしてここにいるんや?」
「ここの……使用人だからだよ?」
「ずっと一条家におるわけやないやろ」
「……ここに来る前は一乃瀬のお屋敷にいたけど」
質問の意図が分からない。でも、光くんの話に耳を傾ける。本当にどうしたんだろう。熱で何かよく分からないことを考えちゃったのかな。
「……君とお姉さんは本当の姉妹なん?」
「え?そうだけど……」
やっぱり似てないのかな。門番さんは、ちゃんとしていれば似てるって言ってくれたけど。……特にこの真っ茶色の瞳はよく似てるーー。
「……なんでメイド学校なんて行ったん?」
「お仕えするのにちゃんとお勉強した方が良いって……ばあや……あ、前のメイド長に言われて」
ますます何を聞きたいのか分からない。貴族のお屋敷に仕える家に生まれたら、その地を治める公爵家が運営する執事学校かメイド学校に通うのが慣例だ。あ、分かった!そう言うことか。
「どうして遠くの学校に行ったのかってこと?」
光くんはやや俯いて黙っているだけだ。
「……柚子も王立のメイド学校行きたかったんだけど、このお家から通うとお姉ちゃんに甘えちゃうから。……あと柚子のお母さんの出身の学校って事もあって五十嵐家のメイド学校に行ったんだよ?」
一条家の領地は王都を囲んでいるので、大きな病院や学校は配置されていない。その為、必要があれば王都まで通うのだ。お姉ちゃんは、王立のメイド学校を卒業していた。対して私は王国の北東に位置する遠く離れた五十嵐家の領地のメイド学校を卒業した。学校違うから不思議に思ったのかな?本当の姉妹なら同じ所に通うと思ったのかな?
彼の意図が何も掴めないまま、よく分からない質問に答え続け時間は過ぎていく。
最初のコメントを投稿しよう!