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 太陽の神(ミナ)に仕える神官がわざわざコガのもとへやってきた。  そのようなことはこれまで一度もなかったのでコガはやっと出来た新居で神官を上座に座らせ、頭を下げた。 「わざわざお見えになるとは……。なにか私がしでかしましたでしょうか」  頭に赤い羽根の冠を付けた神官が持ってきた木箱を静かにコガの前に置いた。 「時々、月の民(ナルガ)の島へ行っていたと聞く」 「あ……いや、漁に出ていてちょっと足を伸ばしてしまいましたが、意味はございません」  コガは嘘をついていたが、全てが嘘だとも言い切れないと頭の中で言い訳をした。マキには一度しか会っていないのだし、特別なことはなかったのだから。 「そうか。それでも月の神(ナル)がお怒りだ。お前にはこの御神体の一部をこれより一生守り続けてもらわねばならない。禁を犯してはならぬのだ。あちらにはあちらの、こちらにはこちらの生活があり、我々は互いに尊重し合って生きているのだ。わかるな?」  そこまで語気が強かった神官だが、口調を和らげ腕を組み、窓辺の太陽が燦々と降り注ぐ場所をみやった。 「あそこに祀りなさい。月は太陽がないと輝けない。どちらが欠けても生きてはゆかれないのだ。我らが月の光に思いを馳せるように、月もまた太陽の光を望むものだ」  そこでまたコガに顔を向け言うのだった。 「お前が亡くなった時、この御神体もお前と共に土へと帰す。太陽と月は一心同体。お前の一部だと思い、大切に崇めよ」  月の民(ナルガ)の島に上がったことは確かだが、思わぬ大きな任に怯むコガだった。御神体と共に葬られるとは畏れ多いことであり、想像もつかないことだ。 「私がしたのはそんなに大事(おおごと)だったのでしょうか」 「まぁ……そうだな。お前がしたことで運命が変わった者がいるかもしれぬ。そういう意味で、罪深いことをしたのだ。日々神に詫び、最後は連れ従うつもりで過ごすといい」  神官は木箱に手を載せると「罪深いことだよ」と呟いた。  コガは木箱を食い入るように見つめ、一度しか会えなかった女を思い返していた。あの人がどこかで幸せになっていることをなぜだか祈らずにはいられなかった。 終
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