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3
マキは島に戻り、どこに行っていたのかと母に問い詰められたが眠れなかったから祠で月の神に祈りを捧げていたと嘘をついた。母は不機嫌に「それでも陽のあるうちにおもてに出るなどもっての外」と叱責した。
頬が火照るのを抑えながら素直に頷いたふりをし、マキは少し横になると家の中へと入って行った。
寝台に身を横たえると先程のやり取りを何度も反復していた。
「コガだ。月の神に会えたことは一生の宝だ。じゃあ」
「月の民でしょ」
「いや、君は……月の神そのものだよ。儚く孤高の月そのものだ」
あの人はマキを月の神だと言った。あの美しい唇でそう言ったのだ。出来れば漆黒の瞳でマキを見つめながらいってもらいたかったが、それは望み過ぎだとますます頬を火照らせる。
運命の人だと本能で感じていたし、きっと相手も、コガも、そう思っていたはずだ。
言い伝えより大事なものはこの直感と、心より愛する喜びなのではないだろうか。なんの理由も添えられていない言い伝えなど、古めかしい遺物に過ぎないとすら思うのだ。
コガは運命に抗おうとして、マキから背を向けた。そんな態度もマキにはなんの障害にもならないと感じていた。
「あの目……あの人だって私を求めていたもの」
日中の日差しや雨風を遮る為に窓枠に挿してある椰子の葉が風に靡き、月がマキを見下ろしていた。
「月の神よ、私は運命の人を見つけたのです。たとえ種族が違っていても、本物の愛情があれば何事も乗り越えられるでしょう。貴方様はきっと、魅力溢れる太陽の民に惑わせられて月の民が衰えることを心配なさったのでしょう? 絶対に月の民を蔑ろにすることはないと誓います。ですから、あの人と私を夫婦にしてください」
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