人生最後の日

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人生最後の日

「それでは最後になります。いいですか? 力を抜いててくださいね・・・。少しチクッとしますよ」  私の左腕にそっと注射針が刺され、ゆっくりとピストンが押しこまれた。  もう後戻りできない。そう思った瞬間、全身から冷汗が吹き出した。自ら望んだ事だから悔んではいないが。  注射器の中身は筋弛緩剤――安楽死薬だ。数十秒後に私がこの世から消え、恐怖も何も感じなくなるまで、あと少し辛抱しよう。  私は他人事の冷静さを装い、医師の手許を、腕から針が引き抜かれゴムの駆血帯が外されるのを見ていた。 「楽にしててくださいねー。だんだん静かになって、すぐに何も無くなりますから」  小さな傷口を脱脂綿で押さえながら、医師が囁くように言った。  私は言われるままに目を閉じる。  よく死の直前には、人生の記憶が走馬燈のように現れると聞くが、そんなものは現れなかった。どうやら自動的に出てくるものではなかったらしい。  ならば仕方がない。この残された時間を使って、自分の意志で人生をふり返ってみよう。  
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