1978年 夏

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「誤解なんだ」 「……どうして……キスしてたんだ、樹と」 「あいつから仕掛けてきたんだよ。ふざけてるんだ、本気じゃないよ」 「だって……」 「あいつ失恋したんだ。好きな男に振られて、ヤケになってる。誰にでも絡んでくるんだ。今日だって急用があるって、ここに呼び出して、いきなり俺に抱きついてきて──」 哲朗は必死に弁明した。 「樹でも振られることあるの」 「大学生なんだけど、そいつ女が好きなんだ。当たり前だけど、男は無理って断られたらしい。 それ以来、誰にでも手当たり次第だ。ちょっとおかしくなってるよ、あいつ」 哲朗の話を聞いて、冬馬は前にファミレスの前で、樹に会ったことを思い出した 。  「……この前年上の人と一緒にいるのを見たよ」 「どんな男」 「ずいぶん年上。9才上だって言ってた。──ホテルに、入るとこだったみたい」 冬馬はためらいがちに付け加えた。 「あー、そいつ絶対ヤルだけが目当てだろ。好きでもない男と、樹もどうかしてるよ」 大きくため息をつくと、哲朗はなだめるように冬馬の髪に触れた。 「冬馬、怒るなよ。俺が他のヤツとキスするの嫌だったか」 「だって、この前俺のこと好きって言ったばっかりじゃないか」 「嫉妬したのか」 「当たり前だよ」 「嬉しいよ……」 そう言うと哲朗は冬馬の頬を両手で挟んだ。 その手のぬくもりに、ふっと力が抜け、冬馬は思わず目を瞑った。さっきまでの動揺と怒りの感情を忘れさせる温かい手だった。
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