1978年 夏

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前回の経験から、ここを触れれば冬馬は拒めなくなるだろうと、哲朗は計算していた。 「お前の肌が見たい」 「ここじゃあ……いやだ」    「もう誰も来ないよ」 「でも──バレたら退学になる。そんなのはご免だよ」 哲朗の手が止まった。 「知ってたのか、その話」  「うちのクラスの三条から聞いたよ」冬馬は哲朗の顔を見上げて言った。 「そうか」 哲朗はそっと冬馬の肩を抱くと、 「じゃあ、お前の家に行ってもいいか?」と訊いた。 冬馬は小さく頷いた。 「──今度の土曜の午後なら、いい。誰もいないから」 「わかった」 哲朗はそう答えて、もう一度冬馬に唇を合わせると、ふっくらとした上唇を軽く噛んだ。 冬馬が口を開けると、また舌を絡めとられた。今度は冬馬も自分からそれに応え、舌を絡めてみた。  承諾のキス、のつもりだった…… 唇が離れると、冬馬は哲朗の胸に顔を押し当てた。早い鼓動が聞こえる。 胸の高まりがおさまるまで、そうして二人は体を寄せ合ったままにしていた。 ──日が傾いてきた。 西側にある窓が夕日で茜色に染まっていた。 「帰ろう」 冬馬がそう促すと、 哲朗は「うん」と言ったあと、何かを思い出すように一瞬黙り、それからこう言った。 「一年のとき、俺も生徒会長に誘われたんだ、この部屋に来いって」 「えっ、」 「でも行かなかった」 哲朗は、小さく微笑んで続けた。 「もう冬馬の事が好きだったから──」
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