1978年 春

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いきなり哲朗は冬馬の上着の間から手を入れて、ワイシャツをめくった。 ひやりとした手の感触に、冬馬は身体を捩った。 「──冷たいよ、哲朗」 「まだ青い痣が残ってる」 哲朗は指でそこをなぞった。 「あ…っ」 「痛い思いさせたよな……」 その手で胴を引き寄せると、哲朗は冬馬を抱き締めていた。 ──その時、ドアの開く音がした。 ハッとして服を直そうとした冬馬は、そこへ入ってきた副会長の北山樹(きたやまみき)と目が合った。 長い前髪の間から、きれいな二重の瞳がこちらを見ていた。 茶色に染めた髪、ツンと尖った鼻、赤い唇。片耳にピアスが揺れた。 決まり悪そうに体を離した二人を、樹は代わる代わる見て、ニヤリと笑うと、 「イチャつくんだったら鍵かけとけよ」 と、意味ありげな言葉を投げた。    「イチャついてなんかないよ──!もう、俺行くから」 冬馬は顔を赤らめて哲朗から離れると、生徒会室から出ていった。 哲朗に急に抱きしめられたこと。それを樹に見られたこと。 その両方で胸の動悸が収まらなかった。
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