第七章 桜降る春に

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「桜子。ぜひ俺のためにこのドレスを着てくれないか」    桜子はかつての天音の言葉を思い出した。  『美しく着飾った桜子を見られないのがつらい』と。    そうだ。  今のわたくしは、天音のためだけに美しく装うことができるのだ。 「ええ、わかりました」  彼女が頷くと、天音は顔を綻ばせた。 「素敵な贈り物をありがとうございます」 「どういたしまして」  天音は少しおどけて、胸に手をあて、礼をした。 ❀❀❀ 「まあ、桜子さん。とてもお美しいわ」  坂上氏の奥さんは、春子の世話だけでなく、着替えも手伝ってくれた。 「このような服を着るのは久しぶりで、なんだか気恥ずかしいですけれど」 「いいえ、大変よくお似合いですよ」  そのとき、ドアをノックする音が響いた。 「支度はできた?」 「はい。どうぞ、お入りになって」  天音は待ちかねていたように、返事とほぼ同時にドアを開けた。  入ってきた彼の服装は、裾の長い、漆黒のテールコート。  はじめて見る、正装の天音は、あまりにも華麗で美しく、桜子は思わず息をのんだ。  
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