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服はハイウエストで切り替えた、レースをふんだんにあしらった膝下丈のワンピース。
歩くたび、ひらりと裾がひるがえり、さながら闇に誘われて現れでた、異国の森に遊ぶ妖精のようだ。
梢でアオバズクが鳴いている。
バサバサと大きな羽音も聞こえる。
こんな時刻に、庭を歩いたことなどない。
木々の間から何やら妖しいモノが出てきそうで、思わず足がすくむ。
でも、どんなに怖くても戻るつもりはなかった。
もう気が遠くなるほど長い間、恋焦がれている人に逢うまでは。
ようやくクスノキの下にたどり着き、目当ての相手の姿を探した。
やはり、文は届かなかったのかしら。
それとも、無視……されたということ……
落胆して気持ちが沈みかけたそのとき、大樹の背後から周囲を伺うように白の詰襟の上着に黒のトラウザーをはいた青年が現れた。
仄暗い木陰でも、桜子にはすぐ、わかった。
まさしく付文の相手であることが。
「桜子様」
「天音、来てくださったのね」
彼の名は天音。
それはこの家での呼び名で、本名はしらない。
天音は英日混血の孤児であった。
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