第一章 樹下の接吻

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 服はハイウエストで切り替えた、レースをふんだんにあしらった膝下丈のワンピース。  歩くたび、ひらりと裾がひるがえり、さながら闇に誘われて現れでた、異国の森に遊ぶ妖精のようだ。  梢でアオバズクが鳴いている。  バサバサと大きな羽音も聞こえる。  こんな時刻に、庭を歩いたことなどない。  木々の間から何やら妖しいモノが出てきそうで、思わず足がすくむ。  でも、どんなに怖くても戻るつもりはなかった。  もう気が遠くなるほど長い間、恋焦がれている人に逢うまでは。  ようやくクスノキの下にたどり着き、目当ての相手の姿を探した。  やはり、文は届かなかったのかしら。  それとも、無視……されたということ……  落胆して気持ちが沈みかけたそのとき、大樹の背後から周囲を伺うように白の詰襟の上着に黒のトラウザーをはいた青年が現れた。  仄暗い木陰でも、桜子にはすぐ、わかった。    まさしく付文の相手であることが。 「桜子様」 「天音、来てくださったのね」  彼の名は天音(あまね)。  それはこの家での呼び名で、本名はしらない。  天音は英日混血の孤児であった。
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