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桜子の父が公使として英国に赴任していたとき、公使館で下働きをしていた天音の母が急死し、天涯孤独の身となった彼の庇護を父が申し出て、日本に連れ帰った。
天音がとても美しい少年だったので、父は自分の手元に置きたくなったらしい。
桜子の父、吉田義兼伯爵は、まるで昔のお大名のように自分の身のまわりの世話をさせる#家丁__かてい__#に見目麗しい少年をそろえていた。
けれど、選りすぐりの少年家丁のなかでさえ、天音の美しさは際立っていた。
十年前、桜子がはじめて横浜の港で出会ったとき、天音は透けるような金色の髪と緑青のような不思議な色の瞳を持つ、お伽話に登場する異国の王子そのものだった。
今は悪目立ちするので金髪は黒く染めているけれど。
そのとき桜子は、まだ七歳の幼い少女だったけれど、出会った瞬間、天音に恋をした。
あれから十年あまり。
桜子よりふたつ年上の天音。
華奢だった少年は、逞しい青年に成長を遂げていた。
「ご忠告に参ったのです。いけません。伯爵家のご令嬢がこのような蓮っ葉女の真似などなさっては」
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