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目の前でアインの胴体は、真っ二つに綺麗に切断されているが…あれ?何かがおかしいとルイにも理解できた。
犬のアインはその口から何とも無かったように、言葉を発した。
「お前さんという奴は、相変わらず血の気の多い女じゃのう」
「傀儡から奴呼ばわりされる言われはないわ」
ぐりぐりと剣先をアインの顎下に押し付けながら、悔しそうにユリは詰問を続ける。
「マトリと彼女の魔石を何処にやったか、白状しなさいな。じゃないとその脳みそも粉々にするわよ」
「お主、虐待で動物愛護協会に訴えてやる!やめんか馬鹿女!」
「今更何を可哀想ぶってるのよ」
「イタイって言うとるじゃろうが」
「嘘おっしゃいます?胴体切って悲鳴もあげないくせに」
ふたりで小競り合いが続くので、我に返ってルイが割って入った。
「ちょっとユリ、説明してくれないかな」
腹立たし気にルイをキッと睨むと、明らかに見下した流し目をしながら
「そんな事もわからないの?教えたくなんて無いわ。そのスカスカの脳みそでも少しは働かせたらどうなの」
「あのね…わからないでしょう流石にこの状況は」
ルイに説明するのも面倒という風情で、ユリはアインに確認を続けた。
「傀儡が作れるってことは、アインは異能の持ち主ね。本体は何処に行ったのよ!まさか、ウィルスを撒き散らしてるとかふざけた事を言ったら容赦しないわよ」
ユリは、本気で怒っている。
「ワシもわからんのじゃ。ちょっと留守番させられてる間に全く姿を見せなくなってしまったんじゃて。しかしよくワシの正体を見破りおったのぉ。流石じゃ」
アインはほぼ首だけの顔に困った風情で話しているのだが、微妙に気持ちが悪い格好なので自らよっこらせと身体を復元し始めた。
「褒められたってちっとも嬉しくないわ。ちょっと見張ってればわかるわよそんなの。あれほど食い意地の張った男が何にも食べないなんて、馬鹿でも気づくでしょう。あら、そこのお馬鹿さんは気がつかなかったようだけど…」
相変わらず、嫌味も容赦がない。
「博士に会う機会が無かったからね。それにしても、本当にアイン博士がマトリと魔石を奪ったという事かな?」
マトリとは、元々『帝都』で脳神経の専門家として医療班ロキシーの前任の班長だった実力者である。
帝都人としてルイ達の幼馴染として生活してきたが、実は体内に『異能エニグマ』を隠し持っていた事が発覚してその除去手術を受けた。
ところがその直後から取り出した『魔石』とともに行方知れずとなっていた。
その連れ出した、あるいは拐った犯人がアイン博士だとユリは確信しているようだった。
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