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3 不穏な気配
#3-1 見えない侵入者
何とも嫌な空気が、首都オーブリーの中枢部で蔓延している。
ロキシーと共にやってきたロバートの妹リアは、結局助からなかった。
未知のウィルスは、その排除に伴い宿主の脳を食い尽くして道連れにしてしまった。
空っぽの中枢は、綺麗さっぱり宿主の存在をかき消してどう足掻いても辿る痕跡を見つけることが不可能な状態にまで掃除されて打つ手はなかった。
カイ達がリアの葬儀から戻ったあと数週後、驚くベキことに同様の症状で亡くなっている生命体がビアズリー国内でも見つかったという報告が次々と上がるようになった。
リアは完全に密閉された医療班に持ち込まれたので、そこからウィルスが拡散されたとは思えないし距離的にも一致しないエリアの被害者分布に関係者は凍りついていた。
ウィルスのk186は、体内に『異能エニグマ』を持つビアズリー人には感染しない事がわかっている。
なので当初疑われた帝都人のロキシーが持ち込んだという疑いはすぐに晴れた。
「私が持ち込むわけないでしょう!ばかばかしいにもほどがある」
とマーキュリー以外の疑いの目を向けた水の学院メンバーに牙をむいたロキシーであったが、早急に治療薬の使用中止と改善の必要性が検討されなければならなかった。
帝都に慌てて戻ろうとしたロキシーに、マーキュリーは感染の広がらないビアズリーで研究開発をすすめることを提案したのだった。
もちろんマーキュリーも手伝うつもりで。
ところがそれには待ったがかかってしまう。
他の学院が、水属性の独占研究に難色を示したのだ。
「全く研究者って奴らは、始末に負えん!」
自分の事を棚に上げてぷんぷん怒るロキシーに苦笑いしながら、マーキュリーは火の学院長タリス・オイラーをはじめとする五大学院長の総会を開いて今年の5学院対抗戦のテーマを『k186ウィルス』と決めたと報告した。
「さすがは私の学友!絶対勝つ!こうしてはいられん行くぞマーキュリー!」
そう言うなり鼻息荒く、ロキシーはドタドタと走って行ってしまった。
その報告を一緒に聞いていたルイ総将は、残ったマーキュリーに可能性の話しとして拡散ルートを尋ねた。
「おそらくは、ファンタジア内ではないかと…」
控えめだが、はっきりとその可能性の高さを指摘するマーキュリーはしっかりとルイを見返している。
「元々秘密を抱えている私達ビアズリー人は、外からの侵入者に対して非常に敏感です。貴方帝都の関与があってから、不穏な輩の数が倍増しているとの報告も上がっております。しかしながら、ビアズリーをすでに支配下に置いた帝都が今更混乱を仕掛けるとは思えません。残るは、完全な独立権限を持つ『ファンタジア』内部に何かがあると考えるのが定石ではないでしょうか」
それはマトリの一件もあるのでルイ達も同じ考えに行き着くのだが、ファンタジアは元帝都人と言っても今は多民族からなる烏合の衆だ。
その才能を買われてアイン博士が集めてきた優秀な頭脳集団の彼らが、というかアイン博士が再生を不可能にするウィルスを拡散させるのに手を貸すだろうか?
わかったと言う合図の代わりに、マーキュリーを解放したルイは早速ファンタジアに向かった。
※ 研究熱心なマーキュリー(イメージ図…カイ君に似てる😅)
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