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はじめてなつめを抱いたのは、中学二年の夏。あの頃なつめは、抱くたび痛そうな顔をしていた。実際、痛かったんだろう。セックスに使うべき場所じゃないところを使ってるんだから、当然だと思う。
だから俺にも、罪悪感があった。なつめに痛い思いをさせてまで、俺の欲を押し付けているという罪悪感。
それがなくなったのは、あの夏が終わる頃だった。なつめは、痛そうな顔をしなくなった。だからといって、気持ちよさそうな顔をするわけでもない。なつめはただ、黙って静かに目を閉じて、俺に抱かれていた。
罪悪感がなくなってから、俺は自分のことが余計に嫌いになった。罪悪感なく、幼馴染の男を抱いている自分への嫌悪感。抱かれるなつめの感情すら確認したことはなかったのに。
「……章吾、」
どうした、と、なつめが俺の下から顔を見上げてきた。無意識の内に、動きが止まっていたらしい。
「……どうもしない。」
それだけ答えて、俺はまた、馴染んだ動きを再開する。
俺に抱かれるのは、嫌か。
それだけ訊けばいいと分かっている。
嫌だ言われたら、この行為を止めればいいだけ。多分、上手くいけば、あの夏以前の関係に戻ることだってできるかもしれない。
なのに訊けないのは、ただ、止めたくないからなのかもしれない。セックスをと言うよりは、なつめを身近に感じられる行為を。
昔から俺にとっては、両親さえ遠い存在だった。口下手だったから、友人と言えるのだってなつめくらいだ。それで平気だったし、これからだって平気だと思っていた。
なのに、子どもの頃は実際平気だったのに、なぜか歳を重ねるごとに、自分の中の何かが脆くなっていって、一人ではいられなくなる。
「なつめ。」
おもわずなつめの名を呼んでいた。それは、自分の中に巻き起こってきた暗い感情を追い出すみたいに、必死に。
「なに。」
と、なつめは答えた。セックス中とは思えないくらい、いつもと変わらない調子で。
俺は、そのことに安堵した。なつめがいてくれることに。確かに返事をしてくれることに。
「なつめ。」
呼びながら、襟足が少し長くのばされたなつめの髪に、顔を埋めた。
「どうしたんだよ、章吾。」
なつめの細い指が、俺の頬のあたりに触れた。それは、躊躇うみたいにそっと。
いつからだろう、と思った。
いつから俺は、こんなふうに縋るみたいになつめを抱くようになったんだろう。はじめは確実に、ただの性欲だったのに。
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