なつめ

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なつめ

 章吾とセックスした。  その事実だけで、俺の頭の中はもうごちゃごちゃだった。  起こるはずのないと思っていた出来事だった。それは、一生。どんなに俺が、望んだところで。  俺は章吾の幼馴染で、関係は変わることなくずっと続いて行って、それだけで俺は満足しなければいけないと思っていた。ただ、側に居られればそれだけで十分だと。  それなのに、章吾は……。  分かってる。あれは、性欲だ。ただの。勘違いしたら行けない。そう思いながら、俺はまた幼馴染に抱かれる。  抱かれている最中は、もしかしたら好かれているのかもしれないと思う。それは、幼馴染としての情以上に。  でも、行為が終わればそれは俺の気のせいだったと分かる。だって、章吾は変わらない。こんなことをするようになる前の俺たちと同じふるまいをする。  今日だって、俺を抱いた後章吾は、これまでと変わらない顔で中島から借りて来たというゲームの中から格闘ゲームを取り出して、ゲーム機にセットする。  「なつめ、やろうぜ。」  なんで俺を抱いた、と、訊けるわけもない。訊くことで、全ての関係が壊れていくのではないかと思うと、怖くて。  だから俺も、何事もなかったみたいにふるまうしかない。俺の中には、まだ章吾の感触が残っているのに。  俺はベッドから降りて、章吾の隣に腰を下す。以前はそうするだけで腰が痛くて痛くてたまらず、平静を装うだけで精いっぱいだったけれど、もう身体が慣れた。はじめの頃は痛いだけだった章吾とのセックスにも、快感をちゃんと拾えるようになった。それが俺は、嫌だった。  痛いだけならいい。それは、章吾を幼馴染以上の欲で汚した俺への罰だと思える。でも、それが快楽に代わっていくと、分からなくなる。章吾のことも、俺のことも。  章吾とゲームをしながら、ぼんやり考える。  章吾は、寂しかっただけかもしれない。  昔、章吾は寂しがり屋の子どもだった。章吾の両親は、共働きでほとんど家にいなかったし、章吾ははっきり言って友達づきあいも苦手だ。だからいつも、一人でいた。  だから、俺だけだったのだ。章吾の隣にいたのは。  だからかもしれない、と思う。だから、人恋しくて、俺なんかを抱いてみたのかもしれない。章吾には女の恋人もいたはずだけど、付き合っては別れてを繰り返して、一人の人と長く続くことはなかった。  章吾は、寂しいのかもしれない。  そんなふうに思えば余計に章吾とのセックスを止めることはできなくて、章吾にはじめて抱かれた夏から、もう一年が過ぎようとしていた。    
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