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「換気扇の真下で吸っていたんですが、それでも臭いとか、猫に毒だとか言って、洗面器いっぱいにためた水を、頭からかけられたことがあります。その時はさすがに『自分はおいしいところだけ持って行って、なにが猫に毒だよ!ふざけんなこのくそばばあ!ちょっとは掃除とかしろ!』って怒鳴ったんです」
「すごい状況ですね……」
言葉が見つからず、胸がつまるような、目が点になるような唯さんの告白に頭がついていかなかった。
ヤスコさんの行き過ぎた行動と激しい矛盾が、ありありとうかがえる。
昔のギャグマンガとかで、道で歩きたばこしている人に向かってバケツごと
水をかけるなんてシーンはよく見かけるけれども、あれはあくまでも過剰な表現であって、リアルで実行する光景は少なくとも、私は今までお目にかかったことはない。
ましてや、家の中なんて、ありえない。
あっけにとられている視界の隅に、ちかちかとICレコーダーが「録音中」を示す赤いランプを点滅させている様子が見える。
世間は喫煙者に冷たい風潮が確立してはいるけれども、ヤスコさんの行動は、もし家族ではなく「赤の他人」に向けられたならば、それこそ大問題ではないか。
外でも、ヤスコさんは強気で、癇癪持ちみたいなふるまいをするのだろうか。
そう訊ねると、唯さんは「いいえ、真逆です。家族にしかやらないし、パート先でもすごく静かみたいです」と答える。
「父から聞いたから実際に私が目の当たりにしたわけではありませんが、パート先である物流工場で、母はいつも現場スタッフとして在庫や出荷の手伝いをしているそうなんです。ある日、母が財布を忘れたことに気づいて、父が持って行ったんですが、ものすごくおとなしくて静かで、洒落じゃないんですけれど『借りてきた猫』みたいだったそうです」
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