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でもねえ、と唯さんはいったん言葉を切って、その続きを語る。
「財布を渡して戻る途中、父が工場の管理者らしき初老の男性に呼び止められたそうなんです」
「呼び止められた?」
「ええ、働き方というか、勤務態度に問題があると……
」
「静かで、おとなしいだけではなかった、ってこと?」
某アニメキャラみたいな問いかけになってしまい、私は「ごめんなさい、今のはふざけているわけじゃないので」と唯さんに弁解する。
「その方の話では、時間通りに来なかったり、業務に関するマニュアルを確かめずに独自の方法で仕事を進めてしまうらしくて。ほら、そうなると在庫や出荷の不備につながる場合もあるでしょう?だから注意したそうなんですが、その場では『はい、はい』って返事だけはちゃんとして、でも一向にマニュアルや周囲の指摘には従おうとしないんです。何度か繰り返されたので、パートの女性たちにも印象が悪く、孤立しているとか……」
その日、唯さんの父親は猫たちにワクチンを打たせるために有休をとっていたそうだ。
その合間に財布を届けに行ったせいで、ヤスコさんが外でもかたくなに、自分のスタイルを貫いて、注意や叱責を無視しているという状況を生々しくきかされたので、ひどく恥ずかしかったと、唯さんに愚痴をこぼしていたという。
「パートを数日でやめたり、その日のうちに『合わないから』と途中で抜け出してしまうことがあって、近隣の会社や工場と相性が悪いのだろうかって思っていたんですが、これじゃどこに行っても、つとまるわけがないですよね」
注意しても返事はするが、聞き入れることはない。
何か言いたいことがあるのかと訊けば、黙ったまま。
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