1 ヤスコさん①

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 自分の背中を押すために、もし差し支えなければ話を聞いてほしいし、無償で構わないのですべてをさらけ出して「世の中にはこんな奴もいる」と知らせてほしい。  我が家で窮屈な生活を強いられている、猫たちのためにも。  メールは、そう締めくくられていた。  私としては猫好きで、赤いランドセルを背負っていたころから猫が途切れたことがない実家に住み、上京してからはペット可のマンションで偶然コンビニの駐車場でビニール袋に捨てられていた白黒模様のオス猫「ミズタマ」と同居する日々を送っているため、怖い話よりも猫に関する「問題」を懸念し、矢も楯もたまらず飛びついた次第だ。  窮屈な生活など、いくら「完全室内飼育が義務化されつつある世の中」とはいえ、猫が最も苦手としている環境じゃないか。  ボランティア活動をしているわりには、矛盾しているし、娘にも嫌悪されるとはそこまでヒドイ有様なのかと、不謹慎ながら、人様の不幸というかトラブルに首をつっこむ関心度も増していく。  いやいや、すべては猫のためなんだからとプラス思考、もとい「体裁のよい理由」を掲げて、準備し、すっかり甘えん坊となって添い寝をせがむミズタマに後ろ髪をひかれながら、こうして待ち合わせ場所に指定したチェーン系コーヒーショップへ、指定した時間より三十分前に来てしまったという次第だ。    現在社会人三年目になる二十五歳という、まだフレッシュさのある唯さんは指定した時間の五分前に、仕事帰りらしく夏用のサックスブルーがさわやかなパンツスーツで店にやってくると「暑くて暑くて、ちょっと失礼します」とグラスに注いできた氷水をぐいっと一気に飲み干し「ああー、おいしい」と口元を手で拭った。
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