1 ヤスコさん①

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「ええ、母です。ボランティア活動しているせいと言えば偏見かもしれませんが、どこかずれてしまったみたいで。もちろん真面目に取り組んでいる人や、ちゃんと線引きできるかたならこんな風にならないとは思いますが、なんだかこう、狂信的で、ひとりよがりで……だから私も猫があまり好きではないし、母のことはすごく嫌っています」  ボランティア活動と、娘の服装やメイク。  そこにどんな関連性があるのだろうかと、私は首をひねった。 「納得できないでしょうね、当事者である私だってありえないって思っているんですから」 「す、すいません……なんだか、言葉がみつからなくて。お恥ずかしい」 「いいえ、当たり前です。このスーツだって会社のロッカーに入れておきました。地味な色じゃないと猫が警戒するとか、メイクはにおいがうつるとか、香水なんか猫にはよくないって言うから、必要最低限のものしか家にはおいていません」  母親……ヤスコさんの認識と、私の認識ではいささか「差異」があることに気が付く。  諸説あるかもしれないが、アロマオイルや香水などのかおりを猫がグルーミングのさいに成分を体内に取り込んでしまい、体調を崩すことがあるらしい。  体質によっては中毒症状が出ることも少なくないようだが、私もメイク道具を出しっぱなしにしたり、香水を部屋にふりまいたりはしないし、だいいちそこまで気にする必要があるか否かは、猫の性格が基礎になる。  心から猫好きで、いきすぎな配慮をしている人もいるかもしれないが、ミズタマの場合はメイク中は遠くから「どことなく冷めたまなざし」で私を見ているだけだし、香水はファスナー付き収納ケースに入れて、窓を開けて換気しながらアトマイザーに詰め替えているし、服も黒い色以外は体毛を気にする必要がない配色を選んでいる。
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