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ミズタマを飼うときにネットの記事とかを見ていたら、猫はもともと近眼で、色を読み取ることができず、触覚であるひげや体毛、あとは聴覚や嗅覚がすぐれていると知ったことがある。
もし、それが本当だとしたらヤスコさんが「地味な色じゃないと猫が警戒する」という言い分は、間違っているのではなかろうか。
そう述べると唯さんは「私も同じことを調べたんです」と答える。
「髪の毛をカラーリングしたら家に入ってくるなって言われて、友人の住んでいるマンションに泊めてもらったことがあります。メイク道具だって猫にチークを塗ったり、リップティントをつけるわけがないでしょう?香水より嫌なにおいが、家じゅうにたちこめているくせに心外です」
「ああ、なるほど……」
よほどうんざりしているのだなと感じつつ相槌をうつと、唯さんはさらに話をつづけた。
「悪臭のなかで食事して、入浴して、睡眠なんて平気でできる神経がおかしいんじゃないかなって、私はそう思っているんです。せめて服や髪の毛に付着したにおいを消臭スプレーや香水でリセットするか、ごまかすかぐらい許されてもいいはずですよね?けれど母は、何もかも否定するんです。自分はただ、保護してきた子猫をかわいがるだけかわいがって、トイレもケージも掃除したことないし、父と私に丸投げするくせに、命令ばかりして……。警戒するって言われても、猫はむしろ母のほうを警戒していますよ?いつも大きな声をだして私を追い回したり、近所でトラブルを起こしては自治会から注意をうけたりして、矛盾してますよね?あいつ、いいところだけ持って行って、威張りやがって!」
声を荒げる唯さんに向かって、周囲のテーブルから視線が集中して向けられてくる。
ぴりぴり、ちくちくとこめかみが傷んだ。
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