転校生

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転校生

「高梨優斗です。よろしくお願いします」    教室から起こる拍手は東京の高校から転校してきた俺に向けられてはいるが、特に男子からの反応は悪かった。女子の多くは俺をじっと見つめるか、友達とその興奮を分かち合うかの選択に迷うような動きをしていた。そんな中、俺は1人の女子に目をつけた。  澄野結衣。長い黒髪に華奢な身体、美しくも幼さの残る可愛い顔と大きな瞳。誰にでも分け隔てなく接する明るい性格で、男子からの人気が高い女の子だ。  席が近いこともあり、俺と結衣は次第に距離を縮めていった。クラスのアイドルを取られた男子達の嫉妬によって、俺の教室での立場は決して良いものとは言えなかったが、そんなことはどうでも良かった。  放課後の帰り道、俺の少し前を歩く結衣は、後ろ向きで歩きながら話しかけてくる。 「優斗、本当みーちゃん好きだよね? もう写真何枚送ったかわかんないよ」 「癒されるんだよね。あのジト目がさ」  みーちゃんというのは結衣の家で飼っている三毛猫だ。それはお互いが近づく口実だということを、二人はわかっていた。  セーラー服と白いシャツが住宅街のアスファルトの上を歩く。照り返しが強い、夏の始まり。   「……今日親いないんだけど、見に来る?」  結衣は視線を合わせずに、自然とその言葉を口にした。
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