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眩しい暑いと外出を渋る樒と歩いて数分のパン屋へと向かう。大学からもほど近いここは店内に食事のできるスペースがあり、学生人気も高い。俺もよく利用させてもらっている。扉を開けると程よい冷気とともに焼きたてのパンの香りが漂う。いらっしゃいませ、という店主の明るい声。その明朗さを樒にも見習わせてやりたい。
当の樒はというと、襟元を掴み、ぱたぱたと服の内側へ空気を送るように手を動かしている。涼しい店内にほっとした表情を浮かべ、すん、と鼻を鳴らした。一瞬、思案するように目線が右上を向く。それからじっと、店主の顔を見た。
「………………」
「樒?」
「すずしー」
へらりと笑い、トングとトレーを持つ。鼻歌混じりにパンを選ぶ姿は、いつもの樒だ。
(……気のせい)
ではないのだろう。具体的なことまでは分からないが、恐らくは、幽霊にまつわる何かを考えていたに違いない。
――樒 一紗は幽霊が視える。
学内ではそこそこ有名なその噂を、俺はあまり信じていない。死後の世界があるとは思えないし、第一、死人が全て幽霊になるというのなら、地上は幽霊であふれかえっていることになる。あまりにもナンセンスだ。樒の風変わりな言動もまた、噂を補強しているのだろう。
とはいえ、である。樒の「除霊」――催眠や暗示といったもの――に俺自身が助けられたことがあるのもまた、事実なわけで。本当に「幽霊が見える」というより、単に人をたぶらかすのが得意なのではと思っている。
互いに会計を済ませ、一緒に買った飲み物の乗ったトレーを手に席に着く。俺のトレー内は惣菜パンが多いのに対し、樒のトレーは見事なまでに甘ったるいパンで統一されている。
「……本当に食うのかそれ」
「半分はねェ」
「残りは?」
「ハセくんちで食べる」
ちなみに、樒のトレーには八個のパンが四個ずつ、綺麗に並んでいる。砂糖やチョコレートでコーティングされたそれらを前に、樒はのんびりとアイスコーヒーのストローに口をつける。
「居座る気かよ」
「今日バイトないでしょォ?」
にこり、と笑う樒。俺は半ば呆れて自分のパンに手を伸ばす。ツナとコーンがたっぷりと乗ったパンはまだ焼きたてらしく、ほのかに温かい。
「ああ、それとねェ」
のんびりと樒が続ける。
「今朝見た夢、あんまり気にしない方がいいよ。どうせ今夜も見るから」
ぎょっとして樒を見る。樒は濁った瞳を僅かに歪ませ、にいと口元をつりあげた。
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