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「どういうことだ」
パン屋からの帰宅後、俺は改めて樒に訊ねた。せっせとコンビニで買った缶チューハイを冷蔵庫へと入れていた樒が顔をあげる。
「何がァ?」
「さっきパン屋で言ってた話。また夢を見るってなんで言い切れるんだよ。まさか霊が憑いてるって言うんじゃないだろうな」
「…………。ん~~~」
樒はもったいぶるように顎に手を当てて考える素振りをし、「50点かなァ」と呟いた。
「今ハセくんに憑いてるのは、言わば思念の残滓みたいなものだよ。そのものが憑いているわけじゃない。けど、若干の影響はど~~~してもあるんだよねェ」
「また訳の分からないことを」
「うん。まァ、数日は嫌な夢見ると思うけど、それで済むと思うから気にしないのが一番かなァ」
「……あのなぁ」
嫌な夢を見る、と言われて気にするなというのも無理な話である。理由を詳しく聞けば少しは納得できるかと思ったが、余計に薄気味の悪い思いがする。
予言。
「――怖い?」
俺の頬に樒の手が触れる。
「どうにかしてあげることもできるよォ。ちゃァんとお願いしてくれれば、だけど」
「馬鹿言え」
「そ?」
触れる手を払えば、樒は首を傾げ、愉快そうにくつくつと笑う。本当に、どこまでも悪趣味な奴だ。
「思念の残滓、ってことは、霊そのものが憑いてたこともあるって口振りだな」
馬鹿らしい、と思いながらも樒の話に合わせる。すると樒は右手をひらひらと振って否定した。
「いーやァ。今回のは違うねェ。ハセくんに何か憑いてたら僕が気づかないわけがない。今回のは例えるならもらい事故みたいなものだよ」
「もらい事故?」
「女の思念のね」
ハセくんはモテるからなァ、と樒。そう言われても身に覚えはない。今日の悪夢、あれが本当に誰かの思念の残滓なのだとしたら、その「誰か」は恐らく死んでいる。死体を埋めていたのは男だった。女ではない。ならば死体が女だと考えるのが妥当だ。とはいえ、近所で殺人事件があったという話も聞かない。そもそも、残滓を貰い受けるほど近くに殺人鬼がいたらたまったものではない。樒のどことなく何かを隠しているような言い回しが気になったが、虚言だろう、と結論づけ、俺は小さく息を吐いた。
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