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「どぉしたのォ? それ」
「……別に」
翌日、喫煙所で樒とぱったり会うと、俺を見るなりにやぁ、と笑った。首元に貼った湿布に「ほら見たことか」と顔に書いてある。
「寝違えたんだよ」
「ふゥん?」
樒は頷きながらも、じろじろと首元を睨め回す。
「何だよ」
「いやァ、ハセくんは罪深いねェ~~~と改めて思ってねェ。苦しくないの? 今」
「湿布なら特に」
「じゃなくてさァ」
樒はぎゅっと煙草の火を消すと、その指先をこちらへと向けた。
「ハセくんに憑いてる女、さっきからずーっと君の首を絞めてるから。まるでハセくんは私のものですって言わんばかりにねェ。愛されすぎて苦しそ~~~って思ってさァ」
「………………」
「僕の見立てじゃァ、あと一週間くらいは持つかもねェ。それ以上はハセくんの命の保証はできないかなァ」
ぞくり、とした。
あの女の髪が目が声が感触が、蘇ってくるようだった。また今晩、あの夢を見たら、俺はどうする?
しかし一方で、冷静に考える自分もいる。樒が誰かから前もって肝試しの話を聞いていたのかもしれない。ショートヘアの女、というのも当てずっぽうで言ったのが偶然当たっただけかもしれない。
それでも、首の痣だけは論理的に説明ができない。夢と現実が連動しているという非科学的な説明以外に、説明のしようがない。
「悪ふざけが過ぎるだろ」
「ふざけてなんてないよォ。僕ぁさっきから視えるものの話しかしてないし。今更そんなの知ってるでしょ~~~?」
言いながら、樒は新しい煙草に火をつける。と、チャイムが鳴り、学生が慌てた様子で建物の中へと吸い込まれてゆく。すっかり人影のなくなった喫煙所に、樒の紫煙だけがたなびく。
「どうするゥ? 僕なら祓えるよ?」
くそ。挑発的な樒の物言いに、俺は。
「乗ってやるよ」
やはり挑発的に返す。それで悪夢を見なくなるなら結構な話だ。駄目ならカウンセリングでも受けよう。死ぬ死なないは別として、さすがに毎晩あの女に会うのは気が滅入る。樒は「素直じゃないねェ」とくつくつと笑い、
「ハセくんさぁ、お願いの仕方を勉強しようねェ」
と濁った瞳を歪ませる。
「死ね」
俺が短く呟くと、樒はあっはっは、と愉快そうに声を上げた。
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