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「除霊」から一週間。俺と樒はコーヒーショップを訪れていた。アイスコーヒーを頼む俺に対し、樒は呪文のように長い名前のフラペチーノを頼んでいる。俺の奢りなのをいいことに、めいいっぱいカスタムを加えているのを見逃しているわけではない。どうして二人分の注文レシートがこんなに長いんだ。
――あれから、女の夢は見ない。
結局、あれはなんだったのか。前情報と俺の思い込みが女の夢を見せていたのか。それとも噂は本物で、俺は女の霊に取り憑かれていたのか。答えは知る由もない。確実に言えることといえば、悔しいが樒の暗示は効いたという事実だけだろう。
「で、少しは信じるようになったァ?」
「暗示だろ」
「でも見たでしょ? 女の幽霊」
ちらり、と樒がどこか楽しげに俺の顔を見る。
「俺は非科学的なことは信じないの」
「実際に見たものでもォ?」
「あれは、……お前の」
「ハセくんさァ、全ての物事が科学で証明できると思ったら大間違いだよォ」
ま、いいけどォ、と樒は見るからに甘ったるいフラペチーノに口をつける。見ているこっちが胃もたれしそうだ。
とはいえ。問題は解決したのだから、一応感謝は伝えるべきなのだろう。
「樒」
「なァにぃ~~~?」
「その、……ありがとな」
樒は一瞬、きょとんとした顔をして、すぐににやにやと頬を緩ませた。
「ハセくん、もう一回丁寧に言って?」
「死ね」
アイスコーヒーをあおる。樒の光のない瞳が瞬いたのには気付かないふりをした。
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