<1・あにめ。>

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<1・あにめ。>

 子供の頃見たアニメを、よく覚えている。家庭教師の先生とお勉強をしたあと、外の世界では小学生の子供達が家に帰ってくるくらいの時間帯に、テレビでやっている番組だったからだ。  毎週火曜日、必ず見ていた。  見目麗しい双子の姉妹と、雄々しい竜神様が出てくるその物語を。 『お姉様は、そうやって地面を這いつくばっているのがお似合いですわ!』  美しいが高飛車な妹と。 『ごめんなさい……役に立てなくて、ごめんなさい』  同じく美しいが、大人しく、魔術の才能がない姉。  双子なのに、二人の性格と才能は正反対。魔術の才能がない姉は、妹といつも比べられ、冷遇されていた。魔物を討伐する仕事においても、体よく囮にされたり、普段の私生活でも奴隷のようにこき使われたりと散々である。そんな生活を、姉は苦しいと思いつつも我慢して受け入れていた。そんなある日のことだ。  二人の目の前に竜神が現れ、妻を探していると言い出すのである。  それは、伝説に出てくる神様であり、神様の嫁になれることは家にとっても大層名誉なことだった。両親は喜ぶ。自分達の優秀な娘、つまり双子の妹が竜神様に見初められたとばかり思ったからだ。  しかし、竜神は才能に溢れた傲慢な妹ではなく、地味な姉の方を妻に選ぶのである。そして。 『よくも今日まで、我が愛しい妻を虐げてくれたな!お前たちに罰を与える!』 『な、なんで、なんでわたくしじゃなくてお姉様なの?いや、いやあああああああああああああああああ!』  竜神の天罰で、妹と両親はその場で焼き殺されてしまうことに。  己を虐める家族がいなくなった姉は、竜神の妻として末永く幸せに暮らすことになりましたとさ。めでたし、めでたし。――細かな筋は覚えていないが、確かこんな話であったはずだ。  恐らく、女性向けライトノベルが原作とか、そういった類いのアニメだったのだろう。きっと、可愛そうな姉に共感する人達は感動し、家族が殺されたシーンを見てざまあみろと笑うことができたはずだ。  でも、少なくとも私はそうではなかった。むしろ憤慨したものだ。何故ならば。 『はあ!?私、お姉ちゃんにこんなことしないもん!大好きなお姉ちゃんを虐めたりとか、絶対しないもん!!』 『花音(かのん)……!』  私も、双子の姉妹の妹だったから。そして、双子の姉のことが大好きだったから。  どこか悲しそうな目でアニメを見ていた姉は、そんな私を抱きしめて言ってくれたのだった。 『花音は、優しい。紫音(しおん)も、花音のことが大好きだよ。紫音たちは、ずっと離れたり、傷つけあったりしない。大事な家族だもの。お父さんとお母さんも絶対そう』 『うん!あんなふうに、私達はなったりしないよね!』  私にとって許せなかったのは、妹が平然と姉を虐めたことだけじゃない。虐めていたとはいえ、自分の実の家族である妹と両親があっさり焼き殺されて、それに憤慨することもなく平然と竜神の嫁になった姉に対してもだ。  後に、成長した私は知る。ああいった話が、世の女性達の間では大流行していたということを。  別にそういうものが好きな人がいてもいい。だけど、私はどうしても好きにはなれないのだ。だって。 ――どうして、姉妹や兄弟で虐めあわなきゃいけないの?なんで、片方の姉妹や兄弟を断罪して、ざまあみろと笑わなければいけないの?  私は、私達は絶対そんな風にはならない。  そう思っていた、だから。 「此度の妻は、柊家(ひいらぎけ)から選ぶものとする」 「……え?」  柊家とは、私たちの家のこと。つまり私と姉のどちらかを嫁にするということ。  目の前に佇む、燃えるような赤い髪をした美しい神様。その人の言葉を聞いた時、私は目の前が真っ暗になったのだ。  まさか本当に、愛する人と傷つけあわなければいけないのかと――そう思ったがゆえに。
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