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クラスに動揺が広がる
放課時間はいつもと同じ。僕の席の回りには誰もいない。
クラスメイトの声が四方から聞こえてくる。
「そうか。マッドキャットか!」
「あいつ、そういえば松山と話をしているのを見た」
「わたし、ふたりが一緒に帰るのを見たことある」
「あいつをバックにするつもりか」
敵意に満ちたクラスメイトの声が聞こえてくる。
いつのまにか、ぼくらふたりの関係は相当多くの人に知れ渡ってたみたい。そして今朝のホームルームがとどめになったみたいだ。
大半の生徒は半信半疑だったと思うけど、今朝の冴月の態度はあまりにも衝撃的だった。
「あの噂、やっぱりホントだった」
という結論になったみたい。
突然、成績優秀、スポーツ万能、クラスのリーダーが近づいて来た。
ぼくの席の前に立つと、正面からぼくを指さした。
「松山、卑怯だぞ」
白鳥くんは大声で叫んだ。
「松山は真面目かもしれないが、いてもいなくても分からない。そういう人間だ。陰キャラそのものだ」
いくら相手が成績優秀、スポーツ万能、クラスのリーダーだからって、なぜそこまで言われなければならないんだろう。
「そればかりじゃない。貴様は卑怯者だ。ヤンキーの相羽を使ってまで、クラス委員になりたいのか」
白鳥くんはぼくをにらみつけた。だから冴月のことなんかぼくは知らないんだ。
いくらそう言っても、もう誰も信じてはくれないんだろうな。
「クラスのみんなもそう思うだろう」
白鳥くんが教室中を見回した。
頼りにしていた「クラスのみんな」は知らん顔で、白鳥くんから去って行った。
教室を飛び出していく生徒もいる。
「おい。みんな。こんなこと許していいのか!松山は、学校の病原菌でマッドキャットで、ヤンキーの相羽を使って……」
白鳥くんが黙りこんだ。背筋を冷たくする怪しい気配にやっと気がついたのだ。
ゆっくりとゆっくりと振り返る。そして急に無口になってしまった。
「どうした。病原菌でマッドキャットでヤンキーの相羽だよ。さっきからおもしろいけどアッタマくること言ってるじゃん。さあ、最後まで話せよ。話し終わったら、ふたりっきりで話させてもらうから!」
キャーーーーーッ
白鳥君の絶叫が教室中に響きわたった。
ホラービデオを一度に何十作見たって、こんな大声は出ないだろう。白鳥くんは涙を流し、鼻水を垂らしながら教室を飛び出していった。
「テメーら、オレのいないとき、話してたこと、もう一回言ってみろよ」
教室は静寂と氷点下の寒さに包まれた。
「今度、洋ちゃんから、誰が何言ったか聞かせてもらう。覚えとけ、バーカ」
冴月は教室から去り、ぼくの話題を口にするクラスメイトはひとりもいなくなった。
そして白鳥くんは、頭が痛いと言って、ついにその日は学校に戻らなかった。
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