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プロローグ
出発準備でドタバタしてるとき、スマホに着信。
ほかの高校に通う遠山君からだった。中学以来のつきあい。
ぼくは正直者だから正直に書く。
遠山くんはいいヤツだと思う。けれども彼から連絡があるときって、たいていよくない用件ばかりなんだ。
「松山、今度は何やったんだ?」
やっぱりそうだった。
「頼む。オレにだけは教えてくれ」
待って欲しい。ぼくはフツーすぎる高校生じゃないか。
松山洋介。高蔵高校二年一組。勉強はほどほど。特技なし。ぜーんぜんめだたない。いなくても誰にも気がつかれない。
「陰キャラ」「クラスカースト底辺」と云われているくらい知ってるけど、本当だから何も反論できません。
そのぼくに向かって言う言葉とは思えない。
「何もしてない。毎日、学校に通ってる。君と一緒だよ」
遠山君の声が小さくなった。
「ひとりか?」
何かに警戒する態度がありありと表れている。
「今、夜の九時じゃない。家だよ」
「お前の婚約者は?」
「婚約者?」
ぼくは正直に書く。遠山くんはいいヤツだ。でも軽薄で軽率なところがあると思う。
「婚約者なんていないよ。誰のこと?」
「オレがしゃべってたら、急にお前の声が聞こえなくなり、
『遠山、久しぶり。面白いこと言ってんじゃない。オレ、お前の家知ってるからな。直接、話したいから動かないで待ってろよ』
って、いきなり冴月の不気味な声に替わるんじゃないか?」
「彼女はね!」
「オレ、住所変わったぞ。来ても空家だぞ。不動産会社の広告が貼ってあるからな」
「だから彼女はね!」
ぼくは時間をかけても彼の誤りを正さなければならないと思っていた。そのとき、母が声をかけてきた。
「洋介!手が空いたらこっちへ来て!明日のこと」
ぼくは、自分の置かれた立場を思い出した。
「ごめん。父方のおじいちゃんが亡くなって、今、葬式に行く準備してるところ。本当に誰もいないよ」
「そうか、すまん。忙しいときに、本当にすまん」
罪悪感を抱いているとは絶対思えなかった。
「でも知っといた方がいいことだ。警察が尋ねて来て、冴月のこと、いろいろ聞かれた。白木という女性刑事だった。それでだ」
遠山くんが声をひそめた。
「ここからが重要だからな。よく聞けよ。お前の名前が出た。
『いつもこの少年のそばにいるってのは本当ですか』
って聞かれたぞ。
『冴月という少女は、本当は松山という少年のあやつり人形に過ぎないと聞いたけどそうなのかな?』
とも言ってた。オレ、警察にウソつきたくないから、
『いつも一緒というのは本当です。それから松山くんは、よく彼女からプレゼントもらってます。腕時計やハンカチとかボールペンとか。千円以上のものは、みんなプレゼントです』
と答えておいた」
何という友人だろう。ぼくは友情なんてなんてあっけないものだろうと思った。
「前にも言っただろう。『暗黒の闇のダークな都市伝説 NOW』って会員制の闇サイトに、冴月とお前のことが出ている。半グレも暴力団も関わり合いを恐れる『マッドキャット』とその愛人だって……」
警察が遠山くんのところまで事情聴取に来たなんて、冴月は一体、何をしたんだろう。
「白木って刑事がな。
『まだ捜査の段階だけど、ハッキリしたら、どうしてもふたりに聞くことかあるの。まず周辺で聞き込みをしてるところ』
なんて意味ありげに言ってたぞ。口止めしなかったから、お前らが動くのを待ってるとオレは見た。どうだ」
いくら、「どうだ」と言われても、身に覚えがないんだからどうしようもない。
「お前、冴月の共犯と疑われてるんかもしれんな。イヤ、お前こそ、主犯と思われてるのかもしれない」
ぼくは体から血の気が引いていった。何のことで警察が調べてるんだろう。冴月と一緒にいた時、何かトラブルに巻き込まれたなんてこと、最近ではなかったはずだ。
それともぼくの知らないところで、冴月が何か騒ぎを起こしたんだろうか?
ものすごく可能性が高いけど、ぼくは一切関係ないんだ。
「オレ、警察の事情聴取とマスコミの取材受けたら、知ってること何でも話すが恨まないでくれ。白木という刑事からはクレープとコーラおごってもらったし、テイクアウトのチキンまで買ってくれた。冴月はどうだ。お前にだけしかプレゼントしないじゃないか」
よく分からない理屈で友人への裏切りを正当化され、一方的にスマホは切られた。
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