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突然の婚約者とは一体?
父方の祖父が亡くなった。両親はぼくが小さい時に亡くなり、同居している母方の叔母は、会社で大事な仕事が入っていてどうしても抜けられない。
代わりにぼくが葬式に出る。連絡するため学校へ電話をかけると、頼んでもいないのに生徒指導の野田先生が電話口に出た。電話の向こうからいやみな口調で、
「何を言ってる。声が聞こえんぞ。そうだ、松山。お前に話すことがある。相羽冴月は、実はお前のあやつり人形だという噂を聞いたぞ。相羽を使って、何か悪いことを企んでいるのか?」
そう勝手に決めつけてくる。間違いなく闇サイトの情報を知っている。
ぼくはフリーズ状態と化し、何も話せなくなった。そばで叔母がぼくからスマホを取り上げ、事情を話して泉先生に替わってもらった。
叔母は泉先生に、葬式に参列するため何日か休むと事務的に伝えて電話を終えた。
「電話くらい自分でかけられない? これ以上、天国のお姉さんを心配させないで」
叔母がため息をつく。叔母さん、たよりない甥で本当にすみません。
「そうそう。相羽さんのお父さんからね。出張で通夜にも葬儀にも参列できないからと香典もお預かりしたから、一緒に先方に渡してね」
葬式は盛大だった。祖父は美薗真彦という人で、映画関係の仕事をしていたそうだ。たくさんの人が葬式に来てくださった。昔のスターとか、結構、有名な人もいたそうだけどよく分んない。
葬式が終わったあと、静叔母さんがぼくを部屋に呼んだ。
「実はね。あなたのおじいちゃんが、あなたに遺言を残してたのよ」
遺言なんて、ずいぶんと大袈裟な話。まさか莫大な遺産を残すとでもいうのかしら?
静叔母さんの後ろには大きな仏壇があり、祖父の顔写真が飾られていた。祖父は、厳しい表情でぼくを見つめている。
「遺言って何ですか?」
「布団の下から、たくさんの紙が見つかったの。読んでみると、とりとめもないことが書いてあったけど、一番上に洋介あての遺言が見つかったの」
そう言うと、ぼくに手紙の入った封筒をくれた。
「最初の宛名しか読んでないから。じゃあ、私はみなさんに挨拶してくる」
「はい」
静叔母さんが立ち上がる。
「そういえば、よくあなたのおじいちゃんに映画の本を借りに来てた相羽さん、どうしてるかしら? わざわざ弔電と香典まで頂いて恐縮だわ」
僕は思い出したくない名前を心に浮かべた。
「そうだ。あの人の娘さんと洋介君、仲いいって聞いたわ。今でもそうなの?」
ちょっと! 何でそんなこと、静叔母さん覚えているんですか?
「近頃、全然会いません。話もしないので何をしているか分かりません」
ぼくはこの話題に触れて欲しくなかった。それなのに静叔母さんったらしつこく、しつこく……
「何度か会ったけど、いい娘さんだったね。洋介も、またあの子に相手にしてもらえるといいね。あの子のほかに、結婚相手が見つかることはないだろうから。今度、会うことがあったらよろしくね」
静叔母さんは、ぼくの気持ちも知らないまま、立ち去った。
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