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冴月とぼくの黒歴史①
相羽冴月は近所に住んでいる幼馴染。ぼくとつながりができたのは、冴月のお父さんが映画ファンだったからだった。
ぼくの家には、祖父の関係で珍しい映画の本や雑誌がたくさんある。冴月のお父さんは、よくぼくの自宅や祖父の家に、映画の本を借りに来た。小学生だった冴月もお父さんと一緒に自宅に来ているうち、ぼくと仲よくなった。と、いうか、無理やりぼくは、冴月の遊び相手にさせられた。
これは百%事実です。
冴月はその頃から気が強く、ぼくはものすごく恐怖を感じてたので、しょっちゅうプレゼントを渡したり。お菓子をあげたりして機嫌をとってた。
手作りのスィーツだって何度かご馳走した。冴月は喜んで食べてくれた。
「ぼくも勉強、あんまりできないけど、ちょっとだけでも、相羽さんの力になるからね」
と言って、毎日宿題を手伝った。高校になった今でも、冴月の宿題はぜんぶ僕がやっている。今では冴月の筆跡と殆ど変わりなく書けるようになった。
ぼくは自分のことがよく分かっている。気が弱くて陰キャラで優等生というワケでもない。クラスカーストの底辺で、フツーならクラスメイトの嫌がらせのターゲットになったって不思議じゃない。
心の中に、冴月といつも一緒なら、平和な毎日が送れるという願いがあったことは否定なんかできない。
小学時代、クラスのリーダー格の男子たちは、冴月にいじめられて、決してぼくに関わることはなくなった。
冴月は中学の頃から学校をさぼるようになり、髪を染めてイヤリングをつけ、キラキラしたかっこうで仲間と一緒に町を歩き回り、夜中にゲームセンターで補導されたり、暴力事件を起こして学校に警察の人が来たりと、一日に何回もいろんな問題を起こした。
今では男子からも恐れられ、決して関わり合いになる人間はいない。
ぼくはヤンキーの女子生徒の仲間と思われてはかなわないと思った。学校からだけじゃない。警察からも目をつけられるかもしれない。
知らず知らず、冴月とは距離をとるようになった。冴月も気にしていたのだろう。校内では、あまりぼくに近づかなくなった。
これでいい。これでいいんだ。クラスメイトに嫌がらせをされるのは、ちょっとつらいけれど……。
それでも冴月の宿題だけは別。毎日靴箱に入れてもらい、自宅で宿題を終わらせると、冴月の家の郵便受けに入れるのが習慣だった。
そしてある日、友だちではなくなる日が来た。
中学二年の秋のことだった。
放課後に靴箱に行くと、冴月がニコニコと満面の笑みで待っていた。ぼくは背筋になぜかしら恐怖を感じた。こんな愛らしい表情を、クラスで見せたことは一度もない。耳たぶからブラブラしている金色のイアリングをつまんで、ぼくに見せつけてきた。英語のアルファベットだった。
「このイヤリング見て。『Y』は洋くんの『Y』だよ~。そして『S』は私の名前だよ~」
なんでそんなこと大声で言うんだろう。教務主任の先生がこちらをじっと見て通り過ぎて行った。
帰り道、一緒に歩きながら突然、一方的に宣言してきた。
「わたしたち大きくなったら結婚するよ。ずっとそう決めてたんだよ」
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