14

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

14

 ああ、そうか。あの時、俺は死にたかったんだ。  そして水底に沈んだ慎也は、輝く水面を見上げた。波で歪んだ水面の向こう、青空を背にしたプールサイドの人影が見える。あれは俺だ。プールサイドにやってきた俺だ。俺が泣いている。そして行ってしまう。  行かないで。ここにぼくを残して行かないで。  あのプールサイドにいた影は、水底にぼくを置き去りにして、大人になってしまう。成功してしまう。光輝く中に歩いていく。水底に置き去りにしたぼくのことは忘れて。ぼくの声は聴かないで。泣き言を聞かない人間になる。  強くなって成功した、と俺は思っていた。しかし前橋いつきは、イジメられた自分を見捨てずに歩んできたのに、俺は中二の時の自分を切り捨てた。忘れただけだった。本当の自分を水底に置いてきた。じゃあ、ここにいる俺は誰なんだろう? 《……to be continued》
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!