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 君の気持ちはわかる。俺と同じだ。会社のために頑張ったのに、無にされた悔しさ。 「一社員でいる限り、君はただ利用されるだけだ。君が報われないのは君が悪いんじゃない。システムが、会社が悪いんだ」 「どうしたら、いいんですか」  窓からの西日に照らされて、いつきの顔が影に沈んでいる。 「会社を利用するんだ。会社を支配する側に立て」 「そんなこと、ボクにはできません」 「いや、できる。俺と組めばできる」  いつきは黙った。心が揺れている。そうさ、前橋、お前の真摯な思いを利用するだけの会社、高崎室長のような奴らは、復讐されて当然なんだ。 「君は考えなくていい。俺が指示を出すから」  もう一押しすれば、彼女は俺の側に落ちる。俺の情報提供者になる。桐生愛も、未亜も、高山禎雄もそうなった。アカツキ製薬に隠された秘密を掘り出し、それを利用して俺はさらに成功してみせる。  彼女に俺を信用させるには、何を話せばいいか。慎也は口を開いた。 「俺も中二の頃、イジメられていた」  いつきの顔が跳ね上がった。目を見開いて、慎也と視線がぶつかる。 「ブタ呼ばわりされ、誰も俺の話を聞いてくれなかった。だが俺は変わった。スクールカーストの最下層から上ってきた」  俺をかつて嗤い、無視した同級生らが仰ぎ見る場所まで上ってやる。どうせこの世は不公平にできている。少数のトップがすべてを支配している。 「君も、君をイジメてきた『普通』の奴らに復讐しないか?」 「それが、玉村さんの夢ですか?」 「そうさ。君も俺と一緒に、成功を目指さないか?」  急にいつきは笑い出した。乾いた笑い声だった。 「成功、はは、それいいですね。玉村さんみたいに、カッコよくて、お金があって、人から憧れられたい、とボクも思います。でも……イジメた方は、玉村さんのこと覚えていませんよ」
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