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 何を言い出すんだ、この子は。 「ボクも考えました。復讐したいって。でも、階段から突き落としても、ナイフで刺しても、ボクの苦しみを味わせることはできない」 「俺たちが成功し、他の奴らはみじめな生活を送る。そこにイジメた奴らがいればいいじゃないか」  喋りながら、慎也は胸の中で砂が崩れていくような感覚を味わっていた。なんだ、これは。 「昔のいじめっ子たちには興味ありません。大人になったら、あの時のようなつらさはなくなると思っていた。でも会社の中には、あの時のボクと同じような生きづらさを抱えている人がいた。そんな人に何かしてあげたい」  いつきの強い視線が刺さるようで、慎也はうろたえた。まずい、何か反論しなくては。 「それで君は幸せなのか! いい子ちゃんになって、人に尽くして利用されて」 「ボクはボクのことしか考えてない。ボクが幸せになりたい。ボクが幸せになるには、みんながいる、この世界が必要なだけ。玉村さんこそ、幸せですか?」 「幸せに決まっているだろう!」  慎也は叫んだ。足元から冷たいものが上ってくる。 「成功して、金持ちになって、上って。その先に何があるんですか? どこまで成功したらゴールなんですか?」  「成功」を否定するのか、この子は? 信じられない。平凡な女子社員だと思っていた。心の傷を、弱みを握れば、誰でも思うように操れたのに、この子は一体? 「ただ自分で自分を抱きしめるだけで、得られる幸せもある。《天びん秤》さんは、それを教えてくれた。玉村さんには、抱きしめてあげたい自分はいませんか? 自分自身が無視している自分はいませんか?」  足元から上がってきた冷たさが、一気に慎也の頭の上まで浸した。慎也は水の中にいた。  中二の時のプールサイド。慎也は水底にいた。あの時、水に沈みたかった自分。毎日がつらくて、居場所がなくて。
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