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 そして、慎也とクラスの“一軍”たちとのやり取りを、遠巻きに眺める別のクラスメイトの群れがいる。奴らはまるで慎也を閉じこめる牢獄の壁だった。奴らは俺を無視して人間扱いさえしなかった。俺は教室で先生に当てられても、いつも正解を言っているのに「変なの」「偉そうに」と言われる。なぜだ? みんな俺の話を聞け!  みんな嫌いだ。俺を見下す奴は許せない。  慎也は一瞬過去に引きずりこまれそうになったが、我に返り、都心のクラブに戻ってきた。酔いが回ったか。  グラスを口に運んで、氷が鳴るのを聴いてから、ぽつんと言った。 「俺も」  女は振り向いた。引っかかった。安い女。 「場所を変えて、飲もうか」  そう言うと、女はグラスを飲み干して、嬉しそうに身を寄せてくる。  慎也がスツールから立つと、女は滑らかに彼の腕につかまった。これで、クラブの他の客には、完璧にカップルに見えるだろう。  明日の予定は何だったっけ? 十一時から歯医者でホワイトニング、そして午後から日焼けサロンの予約が入っている。少しぐらい寝坊しても大丈夫か。  また同じことをする。一夜の遊び、うたかたの狂宴。どこかで見たような姿態、どこかで聞いたような喘ぎ声。そのシーンが今から見えるようで、どうしようもなくて、後でいつも幻滅すると分かっている。俺の中の空洞を埋めてはくれない。  ただ、この女もどこかの中学で“一軍”か、“普通の女の子”だったに違いない。一晩遊んで捨ててやる。暗い復讐心めいたものだけに興奮していた。  勘定を終え、クラブを出る時に振り向いた。闇と光のフロアで若者たちが変らず躍っていたが、もう水族館には見えなかった。
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