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 そして初体験。セックスはしてみると、こんなものか、という感じだった。彼女への気持ちが冷めていく。彼女の話す、学校や友達のことは、レベルが低くてつまらない。時間の無駄だ。彼女と別れた。それからは、女子高生から会社員のお姉さんまで、付き合っては別れる、を繰り返した。  一流大学に進学し都心のキャンパスで勉強しながら、女たちと付き合う。満足できない。もっといい女をつかまえたい。慎也はさらにファッションに金をかけ、トレーニングの負荷を上げた。腹筋にシックスパックができ、ひ弱に見えないように日焼けサロンでやいて褐色の肌になり、歯が少し着色しているのが気になってホワイトニングをする。自分のあちこちが気になった。どこかで誰かに笑われているような気がする。  就職は外資系コンサルティングファームを選んだ。数年コンサルタントの修行をしてから独立する。同じリクルートスーツを着て、大企業の内定の数を自慢し合う同級生たちを内心軽蔑した。サラリーマンなんて奴隷だ。好んで奴隷になるなんて。お前たちがブラック企業で下働きに使われている間に、俺はキャリアを積んで、お前たちのボスと同じステージに立ってみせる。  それを想像するのは痺れるほどの快感だった。セックスなんて目じゃない。あともう少しだ。自分の本も出した。あと一、二社企業再生の実績を積めば、独立できる。  アカツキ製薬は慎也のキャリアの次のステップになるはずだった。老舗の中堅製薬メーカーでありながら、赤字に陥っている会社、こういう会社は不振の原因をつかめばⅤ字回復できる。意気揚々と乗りこんだが、成果を上げる間もなく、品質不正問題でさらに転落したアカツキ製薬は、俺との契約を解約した。
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