111人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
雑誌の付録だったパンのキャラクターのレジャーシートを敷いて、その上に保育園児の美月が座る。首には人形用の聴診器をかけ、手にはこれまた人形用の注射器。
「みつきはおいしゃさんで~、けーくんはかんじゃさんね! はいっ、いらっしゃいませー!」
「みつきちゃん、びょういんはいらっしゃいませっていわないよ?」
「いいのー。はやくすわってー」
美月は圭一に命令し、圭一はすごすごと従う。
家がすぐ近くの二人は幼なじみ。一歳の頃から同じ保育園に通う仲良しだ。
「きょうはどうしましたかー?」
「えっとー、おなかがいたいです」
「わかりました。ではしらべますね」
美月はおもちゃの聴診器で圭一のお腹をぽんぽんする。
「おねつもはかりましょう。あっ、ねつありますねー。おくすりだしまーす」
美月は『くすり』と書かれた紙切れを圭一に渡した。
「はいっ、おだいじにー」
「ありがとうございます」
いつも同じパターンのお医者さんごっこ。美月が毎回お医者さんで、圭一は患者さんだ。
「みつきねぇ、おいしゃさんになるんだー」
「えー、いいなぁ。ぼくもおいしゃさんになりたい」
「じゃあ、いっしょにおいしゃさんになろっか」
全然覚えていない幼い頃の記憶の中で、唯一残っているもの。高校三年生の圭一はふと思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!