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「圭くんはお医者さんになりたいんだ?」
「……子どもの頃からの夢だし」
「えっ、そうなの? そんなの聞いてない」
「……覚えてないだけだと思うけど」
「いつ?」
「保育園のとき」
「そんなの覚えてるわけないじゃん! 保育園のときなんて、圭くんとお医者さんごっこしてた思い出しかないし。……あっ!」
「覚えてるじゃん」
少ししかない保育園児の頃の記憶の中で、美月も圭一と同じ事を覚えているなんて、こんな嬉しいことはない。自然と顔が綻ぶ圭一に対して、美月は顔を青ざめさせる。
「ごめん、圭くん。私はお医者さんにはなれないよ」
「は?」
「だって、一緒にお医者さんになろうねって約束したじゃん。圭くんは頭いいけど、私はバカだから無理」
「いや、それ以前に、医者になりたいだなんてこれっぽっちも思ってないだろ?」
「う……、でも約束した」
「保育園児の約束を本気にするなよ。あんなのノリでしか喋ってないだろうが」
「そうだけど……」
モニョモニョと歯切れが悪い。
圭一はあの思い出がきっかけにはなっているが、別に美月と一緒に医学部へ行こうなどとは思っていない。あれを約束だとは微塵も思っていないからだ。
「こだわる必要ないだろ。美月は美月の好きなことをしたらいい」
「……うん」
「まだ気にしてるのか? 俺はあれを約束だとは思ってないよ」
そう美月を安心させてやりたかったのだが、美月は頬をピンクに染めながらずずいっと圭一を上目遣いで見る。ドキッと圭一の心臓が跳ねた。
いや、頬をピンクに染めているのは熱があるからだろう。上目遣いなのは圭一のほうが美月よりも視点が上にあるだけであって……。
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