part 1

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名前はもう言ってしまった。藤堂組って反社会的な?でも隠すことなく‘藤堂’って彼は名乗ったけれど? ‘紗栄子、くれぐれも何も言うなよっ’ ブチッ…通話時間が表示されてから暗くなったスクリーンをボーッと見ていると、そっと背もたれへと私の背中は移動させられる。そして隣から藤堂さんが私を覗き込み目を合わせると 「水、どれ?」 やはり最短の言葉を発してローテーブルへ一瞬視線を投げた。 「ふふっ…炭酸水の種類が豊富でお店みたい…」 「ボクが好きなんですけど、普通のミネラルウォーターもありますよ」 「舞生が買い物するとこうなります」 福嶋さんが弟さんを見てから 「穏やかでないお電話のようでしたが、大丈夫ですか?」 微炭酸レモネードに手を伸ばしかけて藤堂さんに取ってもらった私を見ながら聞く。 穏やかでない、か…そうだよね。名前は言ってしまったけれど、貝になるべしというのは夫の電話の前から思っていたこと。 藤堂さんが蓋を開けてくれた微炭酸レモネードを一口飲んでから 「ケガは打ち身と擦りむいただけですし、治療の必要なものはありません。飛び出した私の責任の範囲内ですからこれで失礼します。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」 3人に向かって頭を下げた。 「事故だと誰かが知っていての電話だろ?迎えに来てもらうなら住所を伝えるが?」
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