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聞き出すだけでなく申し出も添える藤堂さんは、交渉術にも長けているのかもしれない。それでも私は話すつもりはない。
「大丈夫です。自分で帰れます」
「このあと痛みが出るかもしれないので、それはヤメて下さい」
「舞生の言う通りです、清水さん。迎えがなければ私どもが送ります」
福嶋兄弟も慌てる様子もなく、順に私へと口を開く。名前も言うなと言われたのに、家を知られるなど以ての外だろう。
「本当に大丈夫ですから」
「事故る相手を選べ、は無理な話だと言ったな?」
「……」
「電話の主は事故だけでなく相手…つまり俺たちを知って大声で騒いでいた…アンタとはかなり違う温度でな」
「若、アンタは清水さんに失礼です」
「悪い。紗栄子…だな」
福嶋さんは藤堂さんを若って呼ぶんだ。この人たちは私に何も隠そうとしていないように見える。
「若が車を降りた時点で、若のことを知っている人がいたでしょうから」
やっぱり福嶋弟さんも若と呼んで隠すつもりはないんだ。
「…名前も言うなと電話で言われましたけど、もう言ってしまったものは仕方ないので…この場のことも知らせずに自分で帰ります」
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