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フォークで削るように薄くしたスイカとメロンを順に母の口へと運ぶ。それでも果汁を飲むのとは違って咀嚼するので、口の周辺筋肉を使うことによって母の表情が豊かになる気がする。
「もうスイカの季節は終わるね」
「人生最後のスイカだわ」
「とか言っても、まだまだわからないよ?」
「メロンだって高級だろうに、持たせてくれる耕介さんに感謝だね。よくお礼を言っておいてね」
「うん、わかった」
母は私が夫からもらう生活費の中から何とか捻出したお金でここへ来ているとは知らない。
夫とは私が母のためにお金を借りようと考えているところに出会った。その日までに私はすでに消費者金融について、丁寧に調べに調べていた。そして偏見を持つことなく、きちんと登録されている会社で借りようと決めた時に出会った。
そこの社員である彼に、借りる前に相談に乗ると言われて、当時働き始めた直後の22歳の私は、彼に母の病状と母の意向でホスピスに入りたいことなどを話した。保険適応外になる部分とか、彼はよく知っていてとても頼りになる5歳年上の男性だった。
一旦お母さんのこと以外にも目を向けてリフレッシュして、とデートに誘われてすぐに好きになってしまった。今から思えば、本当に好きだったのかどうかはわからないけど。
そして彼は私にプロポーズして、母のホスピス入居の初期費用を義父と二人で出すことを申し出てくれた。
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