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「ゆっくりね」
母が自分で歯みがきをすると言うので、ベッドから降りるのを手伝う。小さな洗面台に向かって立つ母の腰を支えながら、まだ大丈夫だと思う。
「ちょっと眉を整えてくれる?」
「いいよ」
鏡の中の自分を見ながら母が言うのも何度目だろうか。私はメイクポーチに小さな眉毛用の化粧バサミを入れて来ているのを取り出すと、ベッドにもたれた母に
「目、つむってね」
と伝え、左眉からカットを始める。義母はキツく眉を描く人だと思い出しながら…
夫のプロポーズには‘親と同居’という条件があったけれど、二人ともいい人にしか見えなかったし、父と12歳で死別し母は末期がんだと分かっていた私は同居を断る理由などなかった。しかも二世帯住宅を用意したと言われれば何の不自由も思い付かなかった。
でも実際に結婚して一緒に暮らし始めると、想像していたのとは全く違う生活が待っていた。義母が私と夫の生活空間に自由に出入りし、夫は嫌がる素振りもない。私も普通に同居だと思えば出入りくらいは何ともないのだけれど、細かく家事のやり方について口出しされると、ちょっと違うんじゃないの?と感じたのだ。
決められた食費でやってるんだから、買い物のタイミングなんか放っておいて欲しいと思うけれど義母は私にあれこれと言ってくる。夫に訴えても
「節約方法を教えてくれただけだろ?」
と笑っている。違うってば…それに消費者金融会社ってお給料がいいって言ってたから二世帯住宅を建てて、母の資金援助もしてくれたんでしょ?でも渡される食費はギリギリだし、義母も節約だなんて…性格だろうけれど、強いられるとつらかった。
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