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part 13
大きな黒バンからまず出て来たのは矢口で
「お疲れ様です。私からご報告させて頂いても?」
と俺と、福嶋、舞生、芦田、空雅、松居の様子をサッと見る。
「抵抗する者がいなかったので私達は無傷です。紗栄子さんは?」
福嶋の声に頷いた矢口が口を開きかけると、黒バンから紗栄子が顔を半分だけ覗かせた。ああ、俺が癒やされてどうする…だが、この状況でも真っ直ぐにしか物事を見ても考えてもいない透明な眼差しは、俺の足に残る人の骨が砕ける感覚を消し去る。
「紗栄子」
俺が一歩前に出て手を伸ばすと
「もう…いいの?」
と顔半分のまま聞く声は掠れておらずホッとする。
「ん」
「龍之介もみんなも…元気?」
「ん、何ともねぇ。誰も血を流してねぇからな」
「紗栄ちゃん…ウケる…大丈夫?じゃなく、元気?って…っくっ…おかしっ…」
パコッ…パコッ…
「おかえりなさい…みんな」
笑う舞生とその頭を叩いた芦田と福嶋を見ながら、車から降りた紗栄子を抱きしめた。
「ん、ただいま、紗栄子。矢口、報告」
「はい。紗栄子さんのケガは両手首と口まわりに粘着による痛み。おそらく倒れた時に重なった手首を打撲したのだと思いますが、左手首には打撲痕。あとは両脛に腫れを伴う打撲痕。車では水分と飲むタイプのゼリーを摂られました。以上です」
「…矢口さん…すごい…私が言うこと何もない…」
俺の腕の中でそう言った紗栄子に
「頑張ったな、さすが俺の女…あとはゆっくり俺と眠ってくれ」
ここでは何も言わないであろう紗栄子の耳元でそう告げると、彼女は小さく頷いた。
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